小西康陽が語る65歳の現在地 歌うこと、変わり続けること、驚くほど変わらないこと
自分の弾き語りは音楽活動だと思っていない
―定期的に弾き語りのライヴを始めたのは、自身の意思なんですか? 小西:そうですね、それは割と自主的に。2年前にノラオンナさんに誘われて、二人で2時間やるというライヴがあって、やったらできちゃったので、その喜びが大きくて。俺もついにシンガー・ソングライターだよって思えて。 ―ガット・ギター一本での弾き語り。 小西:そう、それが今一番やりたいこと。シンガー・ソングライターのレコードを集中的に集めて聴いた時もさ、ギター弾き語りのレコードってあまり聴かなかったんですよ。リズム・セクションの入っているものを好んで聴いていた。それが今は完全に入ってない方がいい。だからフォークウェイズとかフォークレガシーとかのレコードも好んで聴くようになった。人間変われば変わるもんだなと思いますね。 ―僕もそういう傾向あります。ライヴよりレコードが好きで、丁寧にプロダクションされた録音作品が好きな人間だった。でも、最近はたった一人の弾き語りの何もコントロールされない感じがピンと来るようになった。 小西:僕がやっている弾き語り、あれは音楽活動だと思っていないから。演芸というか、漫談みたいなものだと思っている。あるいはDJに近いかもしれない。 ―弾き語りのための新曲は書いてないんですか? 小西:まだ書いてないですね。でも、弾き語りやるぞって時にすでに自分で歌いたい曲をたくさん書いてたってことは嬉しかった。あとはおびただしい数のカヴァーをやってます。 ―4年前のインタビュー記事の最後に、小西康陽のヴォーカルは喋りと歌がシームレスだということを書いたんですよ。喋りと歌がシームレスだった代表はビング・クロスビーで、彼のラジオショーを聴くと、ゲストのシンガー達はみんな歌になると歌の声になるけれど、ビングだけは喋りと歌が同じトーンで、行ったり来たりする。小西康陽のヴォーカルも在り方が似ているんじゃないかと。 小西:そう言われたら、すごく嬉しい。弾き語りではすごく小さな声で歌うから、注意して聴いてくださいと言ったりするんだけれど。 ―自分の音楽の聴き手のことは想定しますか? 小西:もちろんします。 ―今回のアルバムはどういう聴き手を想定しましたか? 小西:正直に言うと、同じ年齢ぐらいの人に向けて作りました。 ―ああ、そうなんだ。 小西:あと、若いけれど、多分僕の年ぐらいまでは音楽やりたいなと思っているだろう人たちに向けて。そういうことは考えましたね。 * 雑談的な会話の中で、最近はキューバのフィーリンを聴いているという話も出た。僕は現代の甘ったるいフィーリンは好きではないが、その源流にあるセサル・ポルティージョ・デ・ラ・ルスの弾き語りは大好きだ。彼は1940年代からジョアン・ジルベルトにも比する繊細なギター弾き語りをしていた。その話をしたかったのだが、インタビューの場では名前が思い出せず、セサル・ポルティージョ・デ・ラ・ルスと伝えることができなかった。 帰宅してから、久しぶりにセサル・ポルティージョ・デ・ラ・ルスの残された数少ない録音を聴いてみた。そして驚いた。声のトーンが小西康陽と似ていることに。次に会う機会があったら、それを伝えたいが、彼がこの記事を読んでくれれば、その必要はないかもしれない。 --- 小西康陽 『失恋と得恋』 発売中 アルバム発売記念ライブ 「小西康陽 東京・大阪・福岡」 2024年11月27日(水)東京・丸の内コットンクラブ 2025年1月24日(金)ビルボードライブ大阪 2025年2月1日(土)福岡・ROOMS
Kentaro Takahashi