小西康陽が語る65歳の現在地 歌うこと、変わり続けること、驚くほど変わらないこと
「あなたのことがわからない」変わらぬ恋愛観
―アルバムを聴き進んで、ようやくシンガー・ソングライターらしいサウンドが出てきたと思ったのが8曲目の「朝」で、これはカヴァーだと最初は気が付かなかった。若林純夫さんのオリジナルは武蔵野タンポポ団で聴いていましたが、全然違うじゃないですか。 カントリー・フォーク的な元歌を70年代シンガー・ソングライター的なコード感の曲に作り変えてある。 小西:う~ん、ちょっと残念。 ―え? 小西:残念だ。いや、健太郎さんにはその先まで気づいて欲しかった。あの若林さんが作った「朝」って、詩を読めば、ランディ・ニューマンの「Living Without You」をモチーフにしているんですよ。 ―あ……。そういうことか。それをさらにランディ・ニューマンに……。若林さん、2006年に亡くなられていますが、生前からご関係が。 小西:そうです。大学時代に。 ―お店に行ってた? 渋谷のZOOですよね。 小西:よくご存知で。高校3年の時に受験で東京行くって、和田珈琲店の和田博巳さんに伝えたら、和田さんが店に行けと言った。若林純夫がいるからと。でも、あまりに渋谷の奥の方で分からなかったんだけれど、大学入って最初に音楽の話で仲良くなった同級生がZOOに通い詰めてたんですよ。それから大学時代は4年間、ほぼ毎日のように若林さんと会ってたと思う。 ―ああ、じゃあ札幌の和田さんみたいな存在だった。 小西:そうそう。だから僕が今こんな服を着てるのも若林さんの影響が大きいです。 ―若林さんはファッションの人でしたものね。でも、今回のタイミングで若林さんの曲をカヴァーしようと思ったのは何故だったんですか? 小西:それはね、下北沢で最近、定期的に弾き語りのライヴやってるんですよ。そこで ブレッドの「Make It With You」とか、ニール・ヤングの「Only Love Can Brake Your Heart」とか、そういう曲を僕が勝手に日本語に訳して歌っているんです。それで、そういえば若林さんもこんなのやってたなと思い出した。 ―さっきのソングライターのオリジナル・デモという話に戻ると、一番その原型に近い曲はどれですか? 小西:「あなたのことがわからない」かな。 ―これは未発表曲ですね。いつ頃書いた曲ですか? 小西:4年くらい前。ある女性歌手の人と知り合って、その人のレコードを作りたくて、ずっと準備してたんですけど、レコード会社が決まらず作れなかった。この曲のインスパイアは分かります? ―いや……。 小西:バッファロー・スプリングフィールドの「It’s So Hard To Wait」。 ―ああ、リッチー・フューレイの歌ってるバラード。 小西:こんなにネタばらしていいのか。 ―でも、この「あなたのことがわからない」も小西康陽の変わらぬ恋愛観を表した曲ですね。曲作りの根幹にあるのは、貴方と私は分かり合えないということだったり、いつか別れるってことだったり。恋はしてるけど、もう終わりだって思っている。そういう状態。それが40年間続いている。 小西:そうですね。変わらない。 ―4年前にも同じような話をしたかもしれないけれど、僕達はそれからまた歳をとりました。少し前にS-KENさんと話した時に、S-KENさんは70歳になったら70歳なりの歌いたいことがあると言ってたんですけれど、一方で小西康陽はこんなに変わらない。それは実人生が変わらないからですか? それとも音楽的に変わらないだけ? 小西:どっちとも言える。答えにくいことを聞きますね。でも本当にどっちとも言える。うん。