社説:「原則着衣」の健診 正確さと人権の両立、工夫を
「学校の定期健診で上半身裸は必要?」。4年前、娘がいる京都の保護者から寄せられた疑問に、各方面を取材した本紙記事が一つのきっかけになった。 SNS(交流サイト)などで話題になり、思春期の子どもの心情を踏まえて全国各地でも見直しを求める声が高まる中、文部科学省が本年度から、「原則着衣」に改めた。 正しい検査・診察が最重要なのは当然だが、病気や虐待の兆候を見つけるためとはいえ、児童生徒が不安や苦痛を感じる方法は極力避けるべきだろう。正確さと人権を両立させる健診へ、行政と医師が連携して改善を定着させる必要がある。 「原則着衣」とする1月の文科省通知を受け、多くの学校は、体操服やタオルを使って子どもの体を覆いながら実施しているようだ。女子の受診時には女性の教職員が立ち会うなどの配慮も広がっている。 ただ、胸部の聴診や皮膚疾患の視診の際の対応にはばらつきがみられる。着衣の上から診察したり、体操服の下から聴診器を入れたりするなど通知の趣旨を踏まえた見直しの一方、教職員や学校医が着衣をめくり上げる例も報告されている。 学校ごとに対応に違いがある背景には、胸部露出の必要性を巡る医師間の見解の相違が大きいとみられる。 今春の健診でも体操服や下着を脱ぐように指示されたという滋賀県内の中学の女子生徒は「悲しかった。去年と同じだった」と話す。自治体や学校も「原則」の範囲を巡り、試行錯誤の面があろう。 文科省は現場任せにせず、脱衣が必要な場合があるならば、その例や配慮などについて、医師や人権の専門家らを交えて具体例を挙げ、広く共有すべきではないか。 健診に当たっては、生徒と同性の医師が担当するようにしたり、背骨が曲がる脊柱側弯(そくわん)症の診断に専用機器を導入したりするなど独自の工夫を施す自治体もある。国は、医師派遣の調整や、機器の導入にかかる費用の支援にも積極的に乗り出してほしい。 戦後の学校健診は、結核や皮膚病である疥癬(かいせん)の感染の有無、栄養状態などの診断を主に担ってきた。短時間で効率よく診察するという実施方法はほとんど変わっていないが、食物アレルギーなど子どもが罹患(りかん)しやすい病気は以前と大きく異なっており、かつてに比べて地域の医療環境も充実している。 こうした状況の変化を鑑みれば、子どもや保護者の意向によっては、地域のかかりつけ医で診察を受けられるようにするなど、健診に多様な選択肢を設けてもよいのではないか。 「原則着衣」のスタートを、学校保健安全法に基づく現在の健診の在り方を広く見直す機会にしてもらいたい。