ルールなき冤罪救済の法手続き 「再審格差」是正の訴え国会でも
連携する日弁連の鴨志田祐美弁護士は「袴田さんの事件が注目される今こそ、必ず制度改正まで持っていかなければならない」と力を込める。
もっとも国は、三審制で確定した判決を維持することによる「法的安定性」の重要性や、すぐに退けるべき再審請求も多いといった理由で、改正に慎重な姿勢を崩していない。検察側も、裁判所が再審請求を吟味する上で必要な証拠は、現行制度でも開示しているという立場だ。
■工夫重ねる台湾、検察が死刑判決覆す例も
海外の再審制度はどうなっているのか。超党派の議連が特に注目するのが台湾。日本の再審規定は戦前の刑事訴訟法をほぼ引き継いでいるが、台湾の刑訴法もルーツが同じで再審制度も似ていることが理由。そんな台湾では近年、冤罪(えんざい)防止を目的に相次いで法改正が行われている。
議員立法による2015年の刑訴法改正では再審開始の要件が明確化され、ハードルも下げられた。蔡英文総統のもとで行われた19年改正では、再審請求審を公開の法廷で審理し、証拠調べの請求を認めるなど手続きの進め方を定めた。
台湾では捜査機関が集めた証拠は全て裁判所に提出され、弁護側はいつでも全ての証拠を精査できる。それが公平な裁判を受けるための憲法上の権利と位置付けられ、証拠の扱いという点で日本と異なる。ただそれ以上に目立つ違いが冤罪に対する検察の向き合い方だという。
日台の刑訴法に詳しい台湾・東呉大の黄鼎軒(こうていけん)准教授によると、台湾刑訴法は捜査官に対し、被告に有利な点と不利な点の両方に、平等に注意を払うべきだとする義務を課しており、検察はこれを強く意識。検察が判決確定後も事件を見直す中で有罪を崩す証拠の存在に気づいたケースなど、自ら再審請求をして無罪となった死刑確定事件も近年2件ある。
検察が誤りを認めても、違法捜査がなければ責任を追及する世論は起こらない。「冤罪は検察だけでなく、弁護人や裁判所を合わせた司法制度全体の不具合によって生じる。それを市民も分かっている」という。(西山瑞穂)