話題の「JRE BANK」がJR東日本にもたらすメリットは?【坂本慎太郎の街歩き投資ラボ】
『週刊プレイボーイ』で連載中の「坂本慎太郎の街歩き投資ラボ」。株式評論家の坂本慎太郎とともに街を歩き、投資先選びのヒントを探してみよう。金のなる木はあなたのすぐ近くに生えている! 【図表】JR東日本の株価 今週の研究対象 JR東日本の銀行事業(東日本旅客鉄道) JR東日本が、意外なサービスに参入した。銀行事業だ。楽天銀行と手を組んで提供する「JRE BANK」は、そのおトク特典から人気を呼んでいる。では、同社の投資可能性はどうだろう? 助手 東日本旅客鉄道(JR東日本)が今月から始めた「JRE BANK」って知ってますか? 坂本 楽天銀行と提携して始めたネットバンキングサービスですね。 助手 ええ。利用者特典がスゴいんですよ。新幹線も含めて路線内の片道運賃が最大で年10回、4割引きになったり、普通列車のグリーン券を無料で年間最大4枚もらえたりするんです。僕も早速口座を開設しました。 坂本 サービス利用者として恩恵を受けるのもいいけど、JR東日本に投資して儲けるチャンスの有無は検討しました? ボランティアで特典をバラまくわけないんだから、JR東日本がどんな狙いでJRE BANKを始めたのか考えたほうがいい。 助手 確かに! よく考えたら、なんで畑違いのネットバンキングを始めたんですかね? 坂本 JR東日本の収益源の動向が関係してるんです。 助手 収益源って鉄道ですよね? 坂本 まぁ、そう思いますよね。でも、安定して利益を稼ぎ出しているのは不動産・ホテル事業なんです。前期は1000億円の営業利益を上げています。エキナカ店舗などの運営を含む流通・サービス事業も前期は540億円の営業利益を稼ぎ出し安定的。一方、鉄道を含む運輸事業は売上高では約2兆円を稼ぎ出すものの利幅が薄いんです。同事業の前期の営業利益は約1700億円で、その前の期は240億円の赤字でした。 助手 儲けの約半分は鉄道以外からですか! 鉄道は儲からない? 坂本 そう。そもそも人口減少で利用客が漸減傾向にあった上、リモートワークの定着でドル箱だった通勤定期利用客が減ったからね。しかも鉄道はいわゆる装置産業だから事業を維持するのに一定規模の人員が必要。コストコントロールも難しいんです。将来的には自動運転車の普及もありえるし、現状で儲からないばかりか、さらに苦しくなると思う。 助手 社会インフラとして手堅いイメージだったから意外です。 坂本 不安材料はまだある。今や同社の第二の柱ともいえる不動産事業だって、人口減少で斜陽になりかねない。流通・サービスも同様です。 助手 全然いいところがないじゃないですか! これじゃあJR東日本に投資するのはムリですね。 坂本 同社が何も手を打たないならね。でも、状況を打開する秘策としてJRE BANKが登場したから。 助手 そこがよくわからないんです。既存事業と関係ないですよね? 坂本 いや。JRE BANKは、銀行口座に集まる個人データを活用して鉄道や不動産、流通・サービス事業に送客するのが狙いです。まずは、おトクな特典を打ち出し集客する。そして預金サービスや住宅ローン、クレジットカードなどの金融サービスを通じて顧客の資産状況や購買の傾向を把握する。そこにJRならではの輸送データなどをかけ合わせることで、柔軟なマーケティングや新サービスの開発が実現します。自社のサービスを利用するほど特典を付与すれば顧客の囲い込みにもなる。 助手 特典で囲い込みっていうと"楽天経済圏"みたいですね。先行してる経済圏に勝てますか? 坂本 狙いは同じです。ただ、JR東日本は鉄道や駅ビル、ホテルなど実物資産をベースに事業展開しているのが特色。それに魅力を感じて、既存の経済圏から乗り換える人もいるんじゃないかな。口座数が増えてからが勝負だから、すぐの貢献はないけれど長期投資で面白いと思うよ。 今週の実験結果 JRE BANKは長期的にはJR東日本の成長に寄与しそう。長い目で投資するのはアリかも! 構成/西田哲郎 撮影/榊 智朗