犬スポット訪問記(2)「甲州街道・犬目宿」義民の逸話と桃太郎伝説
坂を上がって振り返ると、村の向こうの山並みを見下ろせる高台に立っていた。
そして「穴ぐら」の先に、薄闇の中、ぼんやりと鳥居が姿を現した。
氏子62戸という小さな社だが、犬目の兵助の時代からあったらしい。
いよいよ暗闇が迫り始めた犬嶋神社から慌てて犬目の集落に戻ると、既に街灯が灯っていた。
最後に、村の中心にある火の見櫓(ひのみやぐら)を、僕は勝手に『犬目タワー』と名づけ、犬目を後にした。
ところで、肝心の「犬目」の由来だが、これがどうもはっきりしないのだ。後日、上野原市の教育委員会の詳しい方にも聞いたのだが、地元の郷土史研究家の皆さんにも「分からない」ということだ。犬嶋神社についても同様。ただし、面白い俗説がある。
犬目から大月側に現甲州街道(国道20号)に降りると、駅名にもなっている「鳥沢」という宿場町がある。その隣の駅が「猿橋」で、江戸時代に日本三奇橋と言われた「猿橋」が桂川にかかる。橋の先にそびえるのが「百蔵山(ももくらやま)」だ。「犬」「鳥」「猿」「百(もも)」と揃えば、これはもう桃太郎を連想せざるを得ない。 ちなみに、桃太郎伝説は岡山だけのものではない。愛知県犬山市にも桃太郎神社があり、我こそは桃太郎発祥の地だとアピールしている。犬目や猿橋付近で僕が声をかけた中年から年配の地元の人は、皆、この甲州の桃太郎伝説を知っていた。ある人は「元祖は岡山なんだろうけどね」とウインクし、ある人は山梨版の鬼ヶ島伝説(鬼退治の舞台は島ではなく、実際には山だった?)についても話してくれた。 どうも「犬」がつく地名は桃太郎由来というパターンもありそうなのだ。愛知県の桃太郎伝説についても、今連載の最終回で紹介したい。