7話考察『海に眠るダイヤモンド』苦渋の決断をする鉄平(神木隆之介)の凄まじい表情!
命を優先することで島の灯火を燃やし続ける
なかなか火が収まらず、島民たちの間に不安が立ち込めるなか、東京の本社からの電話に出て指示を受け入れていた辰雄。しかし途中から鉱員たちの思いを汲み取り、自らの判断で動くように。結果として、密閉が失敗した報告を受け、炭鉱深部の放棄を選択する。炭鉱で働く鉱員たちにとって、そして鉱山でもっている端島全体にとって苦しすぎる判断。けれど、前年に三池炭鉱で起きた甚大な被害の記憶もあり、辰雄は命のほうを優先した。つっかかる一平に、 「守りたいんです。島も、命も」 と伝える辰雄。以前、一平から「子どもを失っていない」と言われていた辰雄。けれどもおそらくは身近な人たちを失ってきた一平ら、島民たちとの交流によって、命の大切さを知った。だからこその決断なのだろう。 「端島は、炭鉱の島です。石炭は我々の財産、生きる糧でした。しかし本当の財産はここで生きている、働いている皆さんです。端島が終わっても、命には替えられない」 「皆さんが生きている限り、この島の灯火は消えません」 7話サブタイトルの「消えない火」は、危険を冒して消そうとしても、消えない火事の火のことであり、そして火事で炭鉱を失ってもなお終わらない島の灯火のことでもあった。
ドラマ全体を支えるちょっとした描写
「私達たくさんなくしたばってん、こん年になってまだこがん幸せがあるってねえ」 いつも家族に寄り添い、明るく振る舞う鉄平の母・ハル(中嶋朋子)がつぶやいた言葉が忘れられない。そう感じた次の瞬間にもう、一平が怪我を負い、この島を揺るがす大きな事故が起きてしまった。それでも、生きていればまた幸せがやってくるかもしれない。 ハラハラする火災や爆発の合間にも、温度と湿度の高い坑内に入る職員にわたす氷に、塩を振って冷たさをもたせる工夫が行われていたり、鉱員に冷たいお味噌汁を用意していたことをいづみ(宮本信子)が思い出していたりと、ちょっとした日々の生活の描写があるのがいい。丁寧な取材が行われていることが伝わってくる。 端島を支える炭鉱を放棄するという絶望的な事故を前にして、いったい史実ではどうなっていたのか、つい調べてしまった。1964年8月に起きたこの事故での殉職者は1名。やはり、進平がその「1名」になってしまうのだろうか。 7話冒頭、食堂で百合子(土屋太鳳)に促され、結婚について朝子(杉咲花)に切り出そうとした鉄平。しかしそこで、慣れない新人が皿うどんを揚げ損ね、煙が出たことで鉄平の告白は途切れざるを得なかった。このできごとがその後の火事を予感させるのはなんともつらい。このまま、鉄平は朝子に気持ちを伝えることなく二人は離ればなれになってしまうのだろうか。 ●番組情報 日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS) 脚本_野木亜紀子 演出_塚原あゆ子、福田亮介、林啓史、府川亮介 プロデュース_新井順子、松本明子 出演_神木隆之介、斎藤工、杉咲花、池田エライザ、清水尋也、土屋太鳳、宮本信子 他 音楽_佐藤直紀 主題歌_King Gnu『ねっこ』 U-NEXTにて全話配信中(有料) ●釣木文恵/つるき・ふみえ ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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