音楽は「人」を通じて好きになる――総再生数3億回、YOASOBI「夜に駆ける」大ヒットの背景
そもそも「小説を音楽にする」作業とはどんなものなのか。Ayaseは言う。 「とても難しいですよ。作り始める前に、インプットの時間がすごく長くて、頭の中で咀嚼する時間も長く、常に小説の中身を確認しながら曲を作るので。毎回作者さんが変わる、物語も変わる。さらに楽曲のテイストも変えているので」
ikuraも「最初、正解の歌い方はわかりませんでした」と振り返る。 「他の人が作った曲を歌って、歌手としても成長したかったので、新しいことをやりたいなって思いました。声をかけてもらったときは、小説を音楽にするということのイメージがわかなかったんですけど。決め手だったのは、Ayaseさんの楽曲。本当に衝撃を受けて、『この人とやったら絶対すごいことになるんじゃないかな?』と思って」
パーソナルな部分を見せることは必要、自由に遊んでください
「ネット発」というと、顔すら明かさないアーティストも多いイメージだが、YOASOBIの場合はAyaseもikuraもTwitter上でパーソナルな側面を出すことをいとわない。ファンのツイートにも積極的に反応していく。2人とも、SNSは「めちゃめちゃ見ています」と口をそろえる。 「特に日本の音楽の聴き方って、その人を好きになるところから始まることが多い。戦略的なマインドもないことはないんですけど、シンプルに僕はSNS好きだし、交流好きだし。ミステリアスな雰囲気を出したいと思っていた頃もあるんですけど、どうせしゃべっちゃう(笑)。隠す必要がないというか、嘘をつくのが一番良くないことだと思うので、ありのままを出しています」(Ayase)
「謎っぽい感じが最初はあったと思うんですけど、実際はお互い外に出ていきたいタイプの人間なので。むしろ有効活用して、パーソナルな部分を出していったほうが、楽曲だけじゃ分からない『人』としての部分が伝わるかなって」(ikura)
それぞれのアカウントだけでなく、公式Twitterの使い方も非常に巧みだ。曲のインスト音源を公開して自由にYOASOBIの楽曲を歌ってくれるように呼びかけたり、原作小説を紹介したり、チャート1位獲得の喜びをファンと分かちあったりと、YOASOBIに触れた人たちが彼らをもっと好きになるような導線が引かれている。 そうした導線に呼応するかのように、「UGC」と呼ばれるユーザー生成コンテンツも多数生まれているのもYOASOBIの特徴だ。YouTubeでは「歌ってみた」と呼ばれるカバー動画、TikTokでは「踊ってみた」と呼ばれるダンス動画が大量にアップされている。 「これまであまりしてこなかった音楽の遊び方みたいなものを、コロナ禍のこともあって、みんなが気づき、発信し、拡散されるタイミングが、僕らの曲の広がりと重なったのかなって」(Ayase) 「自分たちも想像してなかった切り口を開いてもらったなって」(ikura) 「自由に遊んでくださいっていう感じです」(Ayase) SNS上で「聴いてください」「広げてください」と素直に想いを伝え、ファンが拡散する様子を見ていることも伝える。YOASOBIは、自分たちが夢を叶えるストーリーにファンを積極的に巻き込んでいく。