東京都知事選「石丸現象」の衝撃で候補予定者が追われるショート動画対応 偽情報や対立激化への対策不備
東京都知事選挙で石丸伸二候補が2位となったことは、政治の世界にも大きなショックを与えた。 2017年、「排除の論理」に対抗して立ち上がった立憲民主党は、ツイッターからの発信により多くの共感を得て、野党第一党となった。だが24年現在、文字情報中心のX(旧ツイッター)は若い世代に届かず、YouTube等のショート動画での発信がより重要になっている。石丸現象から読み取れるのは、投票行動の参考情報をマスメディアでなく、YouTubeのショート動画やTikTokから得ている若い世代の存在だ。 JX通信社が都知事選投開票日1週間前に都内の有権者2500人余りを対象にインターネットで情勢調査をした結果を発表したが、石丸氏の支持層はYouTubeの動画を「大いに参考にした」「ある程度参考にした」割合が合計で約5割だった。オールドメディアでは各候補に公平な報道を試みる一方、YouTubeやTikTokでは「石丸祭り」とも言える石丸動画だらけの状況が繰り広げられていた。
石丸動画の伸びは意図的に作られている。7月19日の選挙ドットコムのウェブ記事「『石丸現象』はネット広告が着火剤に!都知事選で見えた新しい選挙手法」は、石丸氏がタイミングよくネット広告を利用していると指摘。ネット広告により「選挙前の6月初旬に広告経由のYouTube視聴回数」が上がり、その後のタイミングで「石丸」のウェブ検索、「石丸」のYouTube検索が急激に上がった。「この3要素の軌跡からは、利用者がまず広告経由で石丸氏の動画を見て、その後WEBで検索し、動画の検索へとつながったという行動がみてとれます。石丸氏のバズりは偶然ではなく、広告が着火剤となったともいえるのです」としている。今のネット対策は、ショート動画の有料広告をどう有効に使うかが重要となっている。
5秒でバズる動画作り
自民党総裁選挙が9月27日に終わると、新しい首相が10月半ばにも衆議院を解散し、11月上旬に投開票の総選挙になるとも言われている。候補予定者は、街頭演説、ポスター、チラシなどの準備と同時にショート動画対応をしなければならない。それは5秒で相手に届くメッセージ、バズる動画を作るということ。政治もアテンション・エコノミー(「情報の質よりも人々の関心や注目を集めた方が経済的利益が大きいことを指摘した経済学の概念である。SNSの普及によりアテンション・エコノミーがもたらす負の側面が問題視されている」日経コンパス)の世界に入らなければならない時代がやってきたということだ。 SNSは、似たような価値観の人同士で情報が流通し、自分の価値観とあわない情報が表示されにくい構造があるため、対立や分断が先鋭化しやすい。民主主義の深化ではなく、対立激化を生みだすものだ。その問題点を指摘している自らが、有権者とコミュニケーションを取る手段としてSNSを使わなければならない。 興味を持ってもらうためにどうすればいいか。流行のダンスをするか。動物と遊ぶ姿で人間性を知ってもらうか。候補予定者は何をどこまでしなければいけないのだろうか。私の活動している選挙区でも、YouTubeを開く度に、自民党の新人のプロモーション動画が流れてくる。ネットのジオ広告(生活圏や属性を推定した広告)にどれだけの資金を使っているのだろうか。 オンライン主流の選挙時代がやってきたが、政党や政治家が発信するショート動画に対し、どのようにファクトチェックをするのか、偽情報をどう取り締まるかの対策は遅れている。偽情報発信をするインプレッションゾンビ(収益金分配目的でポストの表示回数を稼ぐため、人気の投稿にリプライするアカウント)にも対応できていない。 民主主義のための選挙活動が、対立と分断を煽るものにならないよう、対応を急がねばならない。
尾辻かな子・一般社団法人LGBT政策情報センター代表理事