「私には母性が足りないのか」初の育児で嗚咽が止まらなくなった山口真由さんに“どんな育児書より”響いた一冊(レビュー)
山口真由さんが昨年第一子を出産した。山口さんは東京大学法学部在学中に司法試験と国家公務員I種に合格、「全優」で卒業後は財務官僚から弁護士に、ハーバード大学ロースクールを卒業してニューヨーク州弁護士登録……そんな華麗なキャリアを経て信州大学特任教授として、執筆活動に、テレビ出演にと活躍を続けている。多忙な日々の中、山口さんが30代で当時はそこまで一般的ではなかった卵子凍結の体験談を公表し、キャリアと妊活のはざまで感じた葛藤を告白したことは話題を呼んだ。 現在、子育て真っ最中の山口さんは世界的ベストセラー『スマホ脳』の著者で精神科医のアンデシュ・ハンセン氏の最新作『メンタル脳』をどう読んだのか。同書はハンセン氏が児童文学作家マッツ・ヴェンブラード氏の力を借りて、脳科学の見地から若者向けに「自身のメンタルとの付き合い方」を解説した一冊だ。 以下が山口さんのレビューである。
■「私には母性が足りないのか」初めての育児で自分を責める日々
さっきまで泣きじゃくっていた子どもはようやく寝息を立てはじめた。子どもを抱いたままソファに深く身を沈める。その熱い吐息を首筋に感じる。その瞬間なぜか頬を涙が伝い落ちて、嗚咽が止まらなくなった。すやすやと眠るわが子を胸に抱く母親――これって幸福を感じるべきシチュエーションじゃなかろうか。私には母性が足りないのだろうか。わきあがる感情は罪悪感の澱(おり)となって私の心に沈殿していった。 そんなときに読んだ『メンタル脳』はどんな育児書よりも福音となって心に響いた。文章こそ平易だが、安直とは対極の内容である。家事に忙殺され、SNSのパトロールに忙しなく本を手に取る暇がない人こそ実はメンタルが悪化しているかもしれない。なんせいま世間は表向きハッピーオーラに溢れている。インスタグラムを覗けば、優雅なバカンスや絵になる家族たちが笑顔で自己肯定感を弾けさせる。その裏で、なかったもののように蓋をされたほの暗い本音が、X(旧ツイッター)上では醜悪な攻撃となって捌け口を求めている。こんな建前と本音が大きく乖離したSNS社会を生きる世代も手に取りやすいように、本書は隙間時間でさらっと読めるようにできている。だがその内容は深遠な脳の世界へのいざないである。