有意義な仕事とは何か
■有意義な仕事と責任ある企業の関係 人はだれしも有意義な仕事をしたいと考える。では、どういう仕事なら有意義なのだろうか。また、有意義な仕事と責任ある企業とはどういう関係にあるのだろうか。 仕事が有意義であるためには、まず、自分が心からしたいと思う仕事でなければならないし、自分が上手にできる仕事でもなければならない。だが、自分が一番好きなことが最初からわかっている人などほとんどいない。得意なことも、試行錯誤の結果だったりたまたまそうなっただけだったりする。人は、だれしも得意なことがある―言葉だったり数字だったり、あるいは、手を動かすことだったり、外で仕事をすることだったりするのだが。 本書『レスポンシブル・カンパニーの未来──パタゴニアが50年かけて学んだこと』著者のひとり、イヴォンは、机に座ってコンピュータースクリーンをじっと見つめているより、アンズの実を摘んだり畑を耕したりしているほうを選ぶタイプだ。規則的にくり返す仕事が退屈とはかぎらない。毎日、ハンマーでたたいてピトンを鍛造する仕事をしてみればわかるが、悟りが開けるのではないかと思う場合もある。『アンナ・カレーニナ』で地主のリョーヴィンが領民とともに麦の刈り入れをした際、リズムに乗れるようになって初めて農民と同じペースで動けるようになるが、そのときのように心に喜びが満ちる場合もある。もうひとりの著者、ヴィンセントは、10月に泥だらけでブドウの収穫をしていた時代もあるのだが、やらされないかぎり外仕事をしようとしない。仕事は、できれば紙と鉛筆でしたいが、スクリーンに向かってでも特に気にはならない。 さまざまな人が協力しあいながら、やりたいと思う仕事をするのでなければ、責任ある企業がきちんと機能することはありえない。したいと思い、かつ、正しい仕事を周囲と協力してするとき、仕事に意義が生まれる―パタゴニアではそう考えている。 ■仕事を意義あるものにするには 本書『レスポンシブル・カンパニーの未来』はパタゴニアの歩みを紹介する本ではないが、ここでは、パタゴニアにおける経験を例にして、会社の責任ある行動(小さなものもあれば大きなものもある)がどのような形で社員の仕事を意義あるものにするのか、また、どうすれば責任ある行動を積み重ねると会社がすばやく抜け目なく展開できるようになり、成功の可能性が上がるのかを示したいと思う。 アルピニストのためのシュイナード・イクイップメントもパタゴニアも、もともとは、クライミングやサーフィン、放浪が大好きで、年に何カ月かだけベンチュラで仕事をしたいと考える変わり種がたくさん働く場だった。物理学や生物学で学位を取ったが、学術研究の世界になじめない、あるいはなじみたくないなど、なにがしかの理由で違う道に進もうと考えた人々もたくさん働いていた。20世紀の芸術家がパリやマンハッタンに惹かれたのと同じで、そんな彼らがパタゴニアを気に入ったのは、同じように異端な人たちがたくさん集まっていたからだ。 そのひとり、クリス・トンプキンスは、高校時代、大学に行かせるのはお金の無駄だと生徒指導員に言われた人物だ。学生時代はあまり勉強せず、鳴かず飛ばずだったが、30歳でパタゴニアのCEO(最高経営責任者)になったあと、めきめきと頭角を現し、会社草創期の難しい時期を上手に切りまわしてくれた(その後は、チリやアルゼンチンの牧場跡地やその周囲にある原生地、8000平方キロあまりを再生・保護する活動を、夫のダグ・トンプキンスとともに推進することになる)。 期待される以上の成果を常に上げ、みんなが現実だと思っている世界に報酬を見いだすタイプの人間を排除したわけではない。じっとしているのがきらいで頭がよく、因習にとらわれない型破りな人間がパタゴニアに惹きつけられ、集まってきたのだ。クリスのように自分の適性が見いだせていなかった人、トライした仕事が自分を活かせるものではなかった人、適性があると思った仕事では食べられなかった人などだ。 パタゴニアには、一風変わった小企業で自分の適性をみつけた社員が大勢いる。彼らは、なにができないのかわかっていないため、仲間に助けられつつ、できるとは想像もしていなかったことをやるようになった。型にはまらない反体制的なパタゴニアの社員は、衣料品ビジネスという一見ささいな仕事で知恵と創造力を発揮し、社会的欲求を満たすことになったわけだ。
ヴィンセント・スタンリー,イヴォン・シュイナード