広島弁で激しい姉妹喧嘩が展開! iaku『流れんな』横山拓也×異儀田夏葉×宮地綾
――おふたりから見ての横山さんの印象はいかがですか? 異儀田 横山さんは「自分で書いたんだよね?」と思うくらい(笑)、一緒に考えてくれる演出家ですね。作・演出が同じ人の作品は多い中で、ついその人に“答え”を求めてしまう現場も多いと思うんですけど、横山さんに関しては、全然それがなく、むしろ私のほうが「役を知っている人」として接してくれるんですね。それがすごくありがたいことで、なかなかできないことだと思いますし、だからこそより考えるし責任感も生まれるし、「この役は?」「この物語は?」と一緒に考えながら寄り添い、並走してもらっている大好きな演出家です。 宮地 本当におっしゃる通りで、役について「どういう状態なんだろうね?」「どう考えてるんだろうね?」と一緒に考えてくださって、その問いに共演者のみなさんも一緒に考えてくださって「こうかもね」というのが出てきて、役者としてリラックスして対話ができるんですよね。すごく楽にコミュニケーションをとらせていただいている大好きな演出家です。 横山 ちょっとだけ補足すると、そこには善し悪しがあって、もうちょっと船頭としてグイグイ行くのが必要な瞬間もあるんですけど、僕の性質上、一緒に俳優と稽古場で見つけたものにこそ価値があって、すごく強固であり、全員で共有できるものだと思います。 自分が「これです!」と言ったものにみんなが近づいていくよりも、「これ、なんか見つかったね」「磨かれたね」ということができることが演劇をつくる一番の楽しみだと思っています。 ――今回の作品を演出する上で一番大切にしていること、意識しているこの作品ならではの部分はどんなことですか? 横山 5人という少ない俳優がひとつのところに閉じ込められて、それぞれの思惑、人間性やずっと秘めていたことが露わになったりしますが、日本人の性質上、普段はそんなに言葉にしないだろうということが、何かの拍子にどんどん出てきて、言葉で傷つけあったり、誰かを守ろうとしている姿がこの1時間35分くらいの時間に全部乗っかっているんですね。暗転も冒頭以外はなく、ひと連なりの時間で進んでいくので、ずっと息が詰まったような状態で、最初はのぞき見しているような感覚だったはずが、いつのまにか観客が何か言いたくなるようなそういう魅力があると思います。 ――睦美と皐月を演じる上での“芯”となるような部分をどのように感じていますか? 異儀田 睦美に関しては、その土地に根を下ろした人なので、街と家族が中心にあると思います。状況からして、子どもであることや女であることを蔑ろにして生きてきてしまったところがあり、そこが難しくもありつつ、面白く見せることができたらいいなと思っています。 宮地 皐月は“お母さん”という存在を知らないから知りたいという気持ちが強くて、それは家族に近づきたいという思いでもあると思います。歳の離れたお姉ちゃんが、普通のお姉ちゃんではなく“お母さん”の顔を持っていたり、お父さんもたぶん、皐月を“母親のいない子”として育ててきた部分があって、普通に甘えるということができなかったんだと思います。 だからこそ「家族に近づきたい」という思いがあって「ちゃんと話して」と思っているんだけど、その態度が反抗期というか……(苦笑)。「なんで言ってくれないの?」という気持ちがあって、家族思いの子だとは思うんですけど、それが軸になっているのかなと。 ――ちなみに『流れんな』というタイトルはどのようにして決まったのでしょうか? 横山 なんとなくいくつかの意味合いにとれるような感じで、関西弁っぽいニュアンスで「これは全然流れないな」という意味もあるし、「流れてくれるな」という、いまここにある思いや大事にしているものを流さずに考えよう、問題をちゃんと考えようというニュアンスもあるし、今回、トイレが象徴的な場所ですけど「流す」場所ではあるけどそこにとどまっている思いとか、そういう意味合いを込めました。 ――最後におひとりずつ、公演を楽しみにされている方にメッセージをお願いします。 宮地 人間らしさ――「わかるぅ!」という部分と「それはちょっと……」という部分がものすごく出てくる、体感していただける作品になっていると思いますのでぜひ見に来ていただければと思います。 異儀田 ほぼドキュメンタリーです(笑)。役者が没入すれば、お客様も没入していただけると思っているので、そのためにものすごく密度の高いことを人間味のある役者とキャラクターで作り上げているので、ぜひ目撃しに来てください。ドキュメンタリーを生で見ることってなかなかないと思いますが、私たちはむき身で恥をさらそうと思っておりますのでぜひ恥を見に来てください。 横山 日本人が普段、なかなかやらない議論や口喧嘩のエンタテインメント化だと思っています。初めてiakuが関西弁以外の方言で――広島弁という、独特のニュアンスを持つ方言でやることも魅力だと思いますし、それを主に広島出身の俳優たちが生の声で演じてくれる濃密さを楽しんでいただけたらと思っています。 取材・文・撮影:黒豆直樹 <東京公演> 『流れんな』 公演期間:2024年7月11日(木)~21日(日) 会場:下北沢 ザ・スズナリ