人類は原始時代に戻れない 枯渇する資源を宇宙で獲得する時代へ
有望視しているのは、地球の軌道に比較的近い軌道を持つ近地球型小惑星です。地球から近いので、比較的燃料が少なくて済みますし、太陽光で電力を得られます。 小惑星のかけらである隕石は、鉄とニッケルの合金からなる鉄隕石や、おもにケイ酸塩鉱物で構成される石質隕石、鉄隕石にケイ酸塩鉱物が混じったような石鉄隕石に大別されます。鉄隕石のなかには、鉄が98%含まれるものもあります。鉄は、地球上で酸化鉄として存在しており、還元して金属として使用するために大量のエネルギーが必要ですが、隕石の中には還元する必要のない鉄が多く含まれる鉄隕石もあります。これを資源として活用できれば、精錬に使用するエネルギーが少なくて済むと見込まれます。 地球の中心核の主な主成分は鉄です。地球が形成される際、白金族など鉄に溶けやすい元素が中心核に集まり、その分地表で採れる量が少なくなりました。小惑星ではそういった大規模な形成プロセスを経ていない可能性があり、地球の鉱石よりも白金族元素が多く含まれる隕石もあります。
宇宙資源の獲得は500年先か1000年先か
6月の日本学術会議のシンポジウムでは、わかりやすい例として、半径1kmの金属型の小惑星の場合、これまで人類が生産した鉄の総量に匹敵する鉄と、これまでの総生産量の倍の白金がもたらされる可能性もある、という話をしましたが、現時点でまだそうした有望な小惑星が本当に存在するのか否かは明らかではありません。あるいはないのかもしれませんが、存在したとしてもけっして不思議ではありませんし、今後の惑星探査に期待したいと思います。 有望な小惑星が見つかったとして、そこから資源を持ち帰るには、かなりの技術的な進歩が必要です。現状、人類は地球に向かう小惑星の軌道を変えることすらできません。実現に向けては発想の転換や、SF的な考え方が必要になります。たとえば、月に小惑星をぶつけて、そこから超伝導技術を活用して片っ端から地球に送るとか。地球に持ちかえるには膨大なエネルギーが必要ですが、ちょっと軌道を変えて月にぶつけるだけなら大分難易度は下がります。今日の宇宙開発においても、そうしたSF的な想像力が求められる局面もあります。今は、そうしたアイデアを皆で柔軟に考えるフェーズにあるのではないでしょうか。 工学系の研究者は、「宇宙に特別な物理はない」とよく言います。一見奇妙な現象に思えても、空気抵抗がない、温度が低いなどの条件を考えれば、わたしたちの知っている物理と同じで何ら特別なことはない、と。だから今までとは違う発想でトライし、乗り越えて得られる成果を1つずつ積み重ねていけばいいのです。 宇宙資源を採掘し、持ち帰るのは、500年先、あるいは1000年先になるかもしれません。現状、さまざまな人々が取り組んでいる循環型社会の構築や、高効率な自然エネルギーの研究などの活動は、地球文明を延命する上で、すべてものすごく重要です。宇宙資源を採掘する時代が来るまで、地球を破綻させず、持ちこたえさせなければなりません。