終わらないアスベスト被害 今後迎える高度成長期のビル解体にどう対応
ビルや住宅に使われてきたアスベスト(石綿)を吸い込み、長い潜伏期間を経て、がんなどになる被害者が今後全国で数万人を超えると見られ、対策を訴えている専門家らが21日、長野市で報告会を開きました。過去の被害にとどまらず、今後耐用年数を迎える建造物の解体に伴う被害の防止も緊急の課題。実態調査と対策にぼう大な人員、費用を要するとされ、国や自治体、専門家、建設業界など総ぐるみの対策が迫られていることが明らかになりました。
潜伏期間は「20~40年」以上にわたる
報告会は「リスクマネージメントにおけるアスベスト対策」をテーマに、NPO法人アスベスト平成40年問題ネット(理事長・鵜飼照善信州大名誉教授=環境社会学)が主催。アスベスト問題の専門家、建設業界、アスベスト対策の企業、長野県など関係者40人が出席し、4人が現状と問題点を報告しました。 この日の専門家らの説明によると、アスベストが肺がん、悪性胸膜中皮腫などの原因となると分かったため国内では1975年に使用禁止に。しかし、アスベストの潜伏期間は20~40年(または30年~60年とも)と極めて長く、患者の発生は将来にわたって続きます。 報告に立った一般財団法人・日本環境衛生センターの村岡良介・研修事業部長は、村山武彦・早大教授(発表当時)らのデータを紹介し、「石綿の病気での死亡予測」として悪性胸膜中皮腫による死亡者数の将来予測は2000~2029年の30年間で5万8800人。2039年までの40年間では10万3000人と明らかにしました。 村岡氏は「米国では被害が深刻化し、2000年代に60万件の訴訟が提起されアスベストの会社の倒産などの事態になった。同じような例は日本にもある。被害者はこれからも増えていく」と指摘しました。
どこにでもあり臭いもないアスベスト
アスベスト被害の実態について一般社団法人・建築物石綿含有建材調査者協会副代表理事の外山尚紀氏は、「アスベストは石だが、綿のような状態の発がん物質。きわめて細いため体内に入ると肺がん、悪性胸膜中皮腫を引き起こすことがある。40年たって発症、死亡した人もいる」と説明。建物の建材として大量に使われたため建設業、解体業の従事者が危険にさらされやすいとしました。 アスベストが使われた場所としては「小学校の天井、公営住宅の天井や配管、鉄骨の回りに張り付けて使用したりした」とし、特に最近相次いでいる震災など大きな災害の後の壊れた建造物から露出したり流出するアスベストが大きな問題だと指摘。「どこにでもある、目に見えない、臭いもないなどのリスクを考えると、強力な規制や対策が必要」と強調しました。 さらに問題なのは、今後解体が予定される高度経済成長期の建造物。アスベスト平成40年問題ネットの鵜飼理事長によると、当時建設されたビル約280万棟が2028(平成40)年ごろに耐用年数に達し、一斉に取り壊されます。それに伴うアスベスト飛散などの防止が緊急の課題で、各報告者も共通して解体問題の重要性を指摘しました。 「平成40年問題」に取り組むための課題の一つは、数十年前のアスベストの使用実態の把握。国交省は専門的な訓練と試験を経てアスベスト調査の資格を与える「建築物石綿含有建材調査者」の養成を急いでいますが、「アスベスト対策で行政の態勢が追いつかない現状もある。問題の建造物の解体前に行政がその存在をつかんでいないといけない。専門家の養成を急いで犠牲者の拡大を防がなければ」(村岡氏)と語り、関係者の焦りは募っています。