今年は「富山産の大粒ホタルイカ」をスーパーで買える…例年なら出回らない高級食材が特売されているワケ
富山県でホタルイカが豊漁だ。昨年は歴史的な不漁だったが、今年はその5倍以上の漁獲量が見込まれている。時事通信社水産部の川本大吾部長は「例年なら料理店向けに流通する富山県産が、今年はスーパーで安く売られている。大粒でワタの詰まったホタルイカが食べごろだ」という――。 【写真】富山県産(左)と兵庫県産のホタルイカ(右) ■地震の影響を回避してホタルイカが大漁 温暖化や海洋環境の異変などで、このところサンマやサケ、イカをはじめ、メジャーな魚介の不漁が続いている。この春、初ガツオなどの豊漁に期待がかかるが、一足早く、日本海で獲れるホタルイカが、漁業関係者の努力もあって、例年以上に好調な水揚げとなっている。 今年の元日に発生した能登半島地震は、石川県で甚大な被害をもたらしたことは記憶に新しい。隣接する富山県でも大きな被害が出ており、漁業被害も少なくなかった。ホタルイカ漁を目前に控え、県内の漁港では地割れや地盤沈下が発生したほか、ホタルイカを獲る定置網も破損。漁場となる富山湾内でも海底の地形が変化するなど「例年通りホタルイカ漁ができるのだろうか」と不安視された。 だが漁業関係者の漁港機能の回復、漁具の復旧への努力によって、3月1日に始まった富山湾でのホタルイカの定置網漁は、好調なスタートを切った。富山県農林水産総合技術センター水産研究所(滑川市)によると、3月1カ月間の水揚げ量は計1153トン。昨年3月は、わずか70トンにとどまったため、まさに大漁。漁業関係者のほか、加工・流通業者などもホタルイカの活発な取引を継続している。
■2023年は歴史に残る記録的不漁だった そもそも富山県のホタルイカは、年によって豊漁・不漁の波が大きく、毎年3~6月までの漁期中に「たくさん獲れていたのに、急にぱったり獲れなくなることもある魚種」と同研究所の専門家も悩ますほど、未解明な点が多い。 これまで十数年の水揚げ量をみても、2013年に約2500トンだったかと思えば、5年後の18年にはおよそ700トンに落ち込み、その後も増えたり減ったりと不安定。昨年2023年はわずか418トンと、データが残る1953年以来、過去最低の水揚げで終漁。それだけに、今年のスタートダッシュは過去にないほどの大漁で、今後の漁にも大きな期待を寄せる向きが多い。 同研究所が3月1日に発表した「令和6年ホタルイカ漁況の見通し」によると、今シーズンの県内の漁獲量は2238トンと過去10年間の平均値(1261トン)を大幅に上回ると予想。豊漁の目安とされる2000トン以上の水揚げが期待できると分析している。 前述の通り、すでに今年の3月に1153トンの水揚げがあり、シーズン予想値の半分以上を稼いでいるわけだが、「4月も順調に漁獲されている」(富山県の漁業関係者)といい、予想を大幅に超える大豊漁となる可能性もありそうだ。 ■今年は富山湾への回遊に適した海況 昨年の大不漁から一転、富山湾でたくさん獲れているのはなぜか。同研究所によると、確かな要因はわからないとしながらも「日本海を回遊する群れが大きいことに加え、海流や水温といった海況条件が湾への流入に適しているのではないか」とみる。 ホタルイカが日本海を回遊しても、富山湾へ入ってこなければ県内の漁獲は上がらない。昨年はそうした状況が顕著で、過去最少の水揚げに終わってしまった。湾への流入が極端に少なかったのに対し、日本海への回遊はあったため、兵庫県ではそれなりに漁獲され、東京などでも旬の味覚を味わうことができた。 ホタルイカといえば富山県が有名だが、実は水揚げ日本一は兵庫県。香住港や浜坂港といった但馬地区で、富山県以上の生産がある。なぜ富山県産が有名なのかといえば、漁業者だけでなく、一般の人も楽しませる沿岸での幻想的な風景が観光資源となっているためであろう。 富山湾に入ったホタルイカは、産卵のために岸に寄ってくる群れが、夜間に青い光を放ちながら一部は浜辺に打ち上げられる。この「身投げ」と呼ばれる光景が、春の風物詩となっており、観光客向けの見学ツアーも人気となっている。