3位は「剣で処刑」、2位は「手を切断、絞首刑」、では1位は…中世ヨーロッパの処刑人がいちばん稼げた処刑方法
■死体の一部や衣服すらも販売していた 処刑人が治療したのは人間だけではなかった。 家畜の病気治療も行い、さらに処刑場の死体の一部、衣服、処刑の道具、釘、処刑台の木片、縄などをひそかに販売したり、薬屋へ卸したりしている。これらが各種の病気、難産、不妊に対して効果があると信じられていたからである。しかし、度を過ごした行為が制裁の対象となったことは、死体の皮をはぎ、なめし皮にしたシュトゥットガルトの刑吏が1573年に罰を受けていることからも明らかだ。 処刑人が作製したお守りも人気があり、みずから販売している者もいた。たとえば「17世紀のはじめに、パッサウの処刑人のクリスティアン・エルゼンライターは、戦場に出かける兵士たちに、秘密の文字を書いたり印刷したりした紙片を売った。それを肌身はなさず胸に入れておくと、殺傷、欧打、弾丸に対して不死身になる」(W・ダンケルト『不名誉な人びと』)という触れ込みである。 当時、民衆は直接、処刑人からアイテムを買うばかりではなく、夜陰にまぎれて処刑場にいき、みずから死体の一部を切り取ったり、衣服を盗んだりした。また処刑された男性が垂らした精液から、薬草のマンドラゴラが生えるとされ、人びとはこれを手に入れようとした。以上のような迷信は、公開処刑が消滅する19世紀後半まで、人びとの心のなかで生き続けていた。 ---------- 浜本 隆志(はまもと・たかし) 関西大学名誉教授 1944年香川県生まれ。専攻はドイツ文化論・比較文化論。著書に『ドイツ・ジャコバン派』(平凡社)、『鍵穴から見たヨーロッパ』(中公新書)、『紋章が語るヨーロッパ史』(白水Uブックス)、『指輪の文化史』(河出書房新社)、『謎解き アクセサリーが消えた日本史』(光文社新書)、『モノが語るドイツ精神』(新潮選書)、『「笛吹き男」の正体』(筑摩選書)、『ねむり姫の謎』『魔女とカルトのドイツ史』(ともに講談社現代新書)、『拷問と処刑の西洋史』(講談社学術文庫)など、共・編著に『現代ドイツを知るための67章』『ヨーロッパの祭りたち』(ともに明石書店)などがある。 ----------
関西大学名誉教授 浜本 隆志