伊藤あおい、ツアー初参戦でベスト8入りの快進撃!変幻自在なテニスが「噛み合いさえすれば…」次戦も期待<SMASH>
その父の教えに磨きをかけたのは、なんといっても、伊藤本人の感性と知性だろう。小学生の頃から大人に混じって試合をしてきた伊藤は、「パワーでは勝てないなかで、勝ち上がるために省エネを考えた」という。 「以前は正統派というか、ライジングで返して前に出る感じだったんですが、それでは限界を感じまして。高校生くらいから試行錯誤して、こうなりました」 草試合を次々に重ねていく中では、相手の情報はコート上で収集し、その場で分析し策を実践していくしかない。その姿勢は今もそして今大会でも、基本は変わっていないという。 「最初にとりあえず自分が得意なパターンをやってみて、それが全然相手に効かなかったりしたら、色々と変えて、一番ポイントを取れるやつを探して……という感じです」 技とヒラメキで組み立てる即興テニスは、どこか前衛芸術的な匂いも放つ。そんな彼女が自分のテニスを貫き通せた背景には、幼少期に通ったテニスクラブの、コーチとの相性もあるだろう。彼女が籍を置いた名古屋のチェリーTCは、全豪オープンジュニア優勝者の坂本怜も輩出した名物クラブ。そのオーナーコーチの千頭氏は、以前に伊藤について、次のような思い出を語ってくれた。 「練習でちゃんと走らない時に、『そんなんやったら出てけ!』と叱ったら、たいがいの子は『ごめんなさい』ってなりますよ。でもあの子は、本当にコートから出ていって、クラブハウスで漫画読んでましたからね」 そう語るコーチの表情は、明らかに楽しそうだった。 初のWTAツアー本戦でベスト8に進んだ伊藤の、次の相手は、ラッキールーザーのエバ・リス(ドイツ/同118位)。 50位の選手に勝ったなら、次も……と前のめりになる報道陣を軽くいなすように、伊藤は「ラッキールーザーと言っても、私よりランキングは100位近く上。それこそ、6ゲーム取れればと思っています」と笑う。 確かに今の伊藤にとって、対戦相手のランキングは、さしたる意味を持たないだろう。 「噛み合いさえすれば……」 噛みしめるように放ったこの言葉の真価が、またコート上で披露される。 取材・文●内田暁