ギャルメイクでバズる信州大学の天文物理学者 離婚して「チラシ配り」から始めた日本のキャリア
「チラシ配り」から始まった日本生活
――ピンチに陥っても「何とかなる」と思える強さは、どうしたら持てるのでしょうか。 それはなぜでしょうか。でも、なぜだかそう思えるんですよ。離婚したときも、何とかなるだろうという気持ちで息子を2人連れて日本に戻ってきて、ポストに広告のチラシを投函する仕事を始めました。1枚配っていくらという仕事なので、あまり多くの収入は得られませんでしたが、それが日本に着いてすぐに始められる仕事でした。 私は職業に対する偏見はないし、どんな仕事やどんな生き方をしていても幸せならいいという考え方です。そのときも、子どものためにすぐに仕事を見つけられてよかったと思いましたし、そういう考え方ができる自分のことがすごく好きですね。 ――自分がすべきことを判断して、すぐに実行する行動力が大事なのでしょうか。 だって、チャンスって、突然降ってくるじゃないですか。目の前にあることをやりつつ、次の世界がパッと開けたら、そっちへ飛び込んでみる勇気は大切だと思います。今の仕事も、子どもたちとキャンプで行った長野の山が気に入って、なんとかここで仕事ができないかと思って探したら、たまたま信州大学で講師を募集していて、面接に行ったら採用になった、という感じです。 もちろん、世の中そううまくいくことばかりじゃないことはわかっていますし、100%自分の力でここまでたどり着けたとも思っていません。たまたまラッキーだったり、恵まれた境遇にあったり、科学では証明し得ない複雑な条件が絡み合った結果、何とかなったことに感謝もしています。それでも、自分のいる境遇について悩んだり、不安を感じたりしている人は、思い切ってそこから一歩踏み出してほしいと思います。私がSNSの活動をする理由の一つは、そういう人たちに愛と勇気、自由のメッセージを伝えたいからです。
「理系女子の少なさ」は日本特有
――日本には、BossBさんのように理系の道を進みたいと思いながらも、理系の研究職はいまだに男性社会であることなどから、出願をためらう女子高校生もいます。「新しい世界に踏み出す勇気」はどうしたら持てますか。 そもそも高校の時点で理系、文系を分けるのは、日本だけです。まずもって、それがおかしいということがあります。さらにアメリカの理系大学トップ校のマサチューセッツ工科大学の学生の男女比は、ほぼ半々です。理系に進む女性が少ないのは、日本特有の社会現象のようなもの。その要因になっていることは、是正するべきだと思いますね。 私がまず変えるべきだと思うのは「女性は理系に向かない」という大人のバイアス、次に大学の先生たちや研究者たちの生き方や働き方です。理系分野の研究者が仕事をしながら魅力的な人生を生きていることがわかれば、理系の道に進もうと考える女性はおのずと増えますよ。 そして、みんな、周りの目を気にして生きすぎです。人と違うことをすると、周囲から陰口をたたかれたり、仲間はずれにされたりすることもあるかもしれませんが、その原因は「ねたみ」ですから気にしなくていい。うらやましいから、悪口を言っているのです。みんながしたくてもできないことを実現しているのだから、むしろ自分はこの人にとってのロールモデルになっているんだ、というくらいに思っておけばいいんです。もっと周りから逸脱して自由に生きている人がいてもいいと、私は思います。
プロフィール
本名・藤田あき美 信州大学工学部工学基礎部門准教授。米コロンビア大学博士課程修了(天文物理学)。米カリフォルニア大学サンタバーバラ校、ドイツのマックスプランク天文学研究所などで研究活動し、2014年から信州大学で教鞭を執る。20年から始めたTikTokのフォロワー数約37万人、YouTube登録者数約26万人(24年8月現在)。2人の息子は現在、20歳と17歳。
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