パワハラ疑惑で指導自粛の湘南・曹監督が語っていた「叱る」と「怒る」の違い
羽田空港近くのホテルのカフェという公の場で、2017年の年末に行われた初交渉。レッズで試合終盤の交代要員に甘んじていた梅崎に対して、曹監督は「もったいない。お前のことを再生させたい。復活させたい」と直球をど真ん中に投げ込み、本音を突かれた梅崎とともに男泣きした。 曹監督に魅せられ、移籍を決意したベルマーレで昨シーズンのYBCルヴァンカップ制覇を経験し、2度目のJ1残留にも貢献した。かつてはプンプンとほとばしらせていた、熱き血潮を復活させてくれた恩人でもあるだけに「(他の選手たちと)どうなるのかな、という話はしている」とこう続けた。 「正直、こんな状況で試合ができるのかな、というところはすごくあります」 自他ともに認める熱血漢の曹監督は指導者の道を歩み始めて以来、その年に集ったすべての選手を愛してきたと公言してはばからない。 昨年2月に発表した著書『育成主義 選手を育てて結果を出すプロサッカー監督の行動哲学』(カンゼン刊)では、選手たちに対して「叱った」ことはあっても「怒った」ことは一度もないと綴り、似ているように映る2つの行為の違いに対してもこう言及している。 「怒るとは、要は自分が抱いたネガティブな感情を周囲に発信する行為となる。だからこそ、怒っているときに発する言葉は相手にもネガティブな思いしか与えないし、そこからは何も生まれない。人間である以上は僕も怒りたくなるときもあるが、指導者として可能な限りそういう感情を封印してきた。 対照的に叱るとは、厳しい言葉を発している自分を、もう一人の自分が見ていると説明すればわかりやすいだろうか。(中略)叱ったときに発する言葉は、相手が『自分のために言ってくれている』と受け止めてくれていると僕は思っている」 パワーハラスメントは言葉や行為を受けた側が、苦痛を感じたかどうかにかかってくる。誰よりも「怒る」と「叱る」の境界線に気を配ってきた曹監督だが、ベルマーレの指揮を長く執ってきたなかで、もしかすると「怒られている」と感じた選手やスタッフもいたかもしれない。