廣岡達朗×石毛宏典×辻発彦「勝つために一生懸命にやれ!」【黄金時代 西武ライオンズ師弟座談会】
「大事なのは辻に投手を見る目があるかどうか」
左から辻監督、廣岡氏、石毛氏
1980年代から始まった西武ライオンズ黄金時代の扉を開いたのは82年から4年間、チームを率いた廣岡達朗監督だった。知将の下で常勝のエキスを注入された選手たち。特に二遊間を組んでいた石毛宏典氏と辻発彦現西武監督は廣岡監督の厳しい教育を受けた。昨季、西武は42年ぶりの最下位に沈んだが、キャンプ前、廣岡邸に石毛氏、辻監督が集結。辻監督への激励とともに当時の思い出を語り合った。 取材=佐藤正行 写真=小山真司、BBM 辻 ご無沙汰しております。 廣岡 最下位になったということは、教え方がなんか間違ってるんだ。(正しい教え方をしていたら)ビリになることはないよ。 辻 はい。 廣岡 病気をするということは、病気が「食事、睡眠を含めて生活が間違っている」と教えてくれるんだ。そう思えばいい。野球でも結果が出ないときはやり方がどこか違うよと、そういう考え方をすれば強くなる。 辻 肝に銘じます。 廣岡 辻なんか、クリーンアップの前にノーアウトでランナーが出て、ここは進めたほうがいいなというとき、どうする? 黙ってる? 辻 そうですね……。そういうことを選手にまず考えさせなきゃいけない。それでやるヤツはランナーを進めるバッティングをするんですよ。 廣岡 考えさせる野球をやる監督はろくなのがいないよ。 一同 ……(苦笑)。 廣岡 それを俺が勉強したのは、ヤクルトで雄平(高井雄平)がクリーンアップを打っていたときだ。クリーンアップを打つ連中にはランナー一塁でバントのサインは出しにくいんだ。だから、「たとえ打ち取られてもランナーを進めるバッティングをせい」と雄平に言ったことがある。「一、二塁間を破って一、三塁にしたら監督は喜ぶけど一塁前のボテボテのゴロでも一塁ランナーはセカンドに行ける。ショートゴロ正面じゃダメだ」と。そしたら雄平は「そういうことは初めて聞きました」と言った。だから教えたほうがいいんだ。 辻 はい。 廣岡 もう一つ、俺がヤクルト監督時代、ランナー一塁で左のスラッガー・杉浦(杉浦亨)が打席に入ったとき、打撃コーチの佐藤孝夫さんを通じて「一、二塁間を狙え」という指示を与えた。それなのにショートゴロ。同じ状況で、またショートゴロ。「俺が直接言う」と言って杉浦に「今度、ショートゴロを打ったら罰金を取る」と伝えた。そしたら一、二塁間へ打った。だからね、辻もやったらいい。 辻 山川(山川穂高)なんかにはランナー一塁で「内野ゴロだけは打つな。三振してもいい。それぐらい割り切っていけ」という話はしますけどね。 廣岡 人間というのはこうしないとやられてしまうという精神状態にさせたほうがいいんだ。そして、成功したら、その成功体験を後進に伝える。場面は千差万別だが、こういうケースではこうするんだという意識で各自がやったらビリには絶対にならない。 石毛 そういうのはわれわれ「必勝法」「必敗法」としてキャンプで叩き込まれてきましたから。ああいう教育が西武ライオンズからいろんな球団に伝播して、今度はアマチュア球界にも伝わっているわけです。僕らが高校、大学、社会人時代に知らなかった知識がいまの子どもたちには備わっていると思うんです。実践できるかどうかは別にして。それは監督の功績ですよ。毎年毎年、キャンプのミーティングで「必勝法第何条を言え」みたいなね(笑)。 廣岡 田淵(田淵幸一)には事前に「きょうは第何条についてお前を指名するから、こう答えろ」と伝えておいた。彼はチームリーダー。ナインの前で恥をかかせたらいけないからね。田淵は人がいいんだ。辻なんかもね、これはやってくれるだろうと思わずに、教えていくんだという強い決意を持って、やらなかったら「コノヤロー、俺の言うことを聞け」と一喝すればいいんだ。「監督に喜んでもらうために一生懸命にやりました」? 冗談じゃないよ。 石毛 ハハハ。 廣岡 選手が一生懸命にやって監督を胴上げしてやる? 監督の言うとおりにやったら自然に勝つんだよ。もう次元が違う。 石毛 ボトムアップかトップダウンかの違いですよね。 廣岡 俺らが1982年に勝ったときは、胴上げのときに選手同士がアイコンタクトで「せーの」で落とそうぜと画策していたらしい、ハハハ。 一同 (笑)。 石毛 田淵さんもそれまでは阪神で細かい野球、厳しい野球は教育されていなかった。そういう野球をプロで初めて叩き込まれて結果を出した。田淵さんが一番喜んでましたからね、あのときの優勝は。ホント大はしゃぎでした。 廣岡 あと、大事なのは辻にピッチャーを見る目があるかどうか。あれば絶対に西武は勝てる。ヤクルトで勉強になったのが野球はやっぱりピッチャーが主導権を握っているんだ。だからローテーションを作ったら5回まで代えたらいけない。でも、出来の悪い先発だと代えたいんだよな。そこをグッと我慢して使うと、選手は「監督は俺を信頼してくれてる」と意気に感じて勉強してくれる。最初は順番を無視して相性の良いピッチャーをぶつけたらいいじゃないかと言われたけど、松岡(松岡弘)、安田(安田猛)を中心にジャンボ(鈴木康二朗)、会田(会田照夫)などをきっちりと回した。そうすると、責任観念が植えつけられて放れるようになる。チームが強くなる。そういうものですよ。 辻 ローテーションねえ……順調に行けばいいですけど。でも、ウチなんか投手陣が全然悪かったから、逆に今井(今井達也)とか松本(松本航)、光成(高橋光成)とかが躍進した。彼らはほかの球団に行ったら一軍で通用したかどうか分からない。でも投げざるを得なくてずーっと投げ続けてきたから、それで成長してきたと思うんですよ。今年はそこらへんを期待してるんです。 石毛 でも西武はピッチャーがだいぶ良くなった。去年、途中から松本が急に良くなったよな。 辻 オールスターのときに「全部真っすぐで行ってみろ」とハッパをかけたんです。そしたら・・・
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週刊ベースボール