『96時間』円熟の名優と若き職人たちが作り上げた傑作アクション
『96時間』あらすじ 疎遠になっていたひとり娘が、初めての海外旅行で訪れたパリで何者かに誘拐された。統計によれば誘拐事件発生から96時間後、人質の救出は不可能に近くなる。娘を救出するため、米政府の元秘密工作員ブライアンは、これまで培ってきた特殊スキルを駆使し、非情な組織に単身乗り込む。
想定外のヒットで世界を変えた映画
世界も人生も、案外うっかり変わるものである。『96時間』(08)はその証明だ。この映画ほど、作った人間たちの思惑を超えて大ヒットし、世界中のアクション映画に影響を与えた作品もないだろう。 世の中には「いっちょ映画で世界を変えてやる! 歴史に残る傑作を作るぞ!」といった意気込みは溢れているが、『96時間』は恐らくその逆だろう。本作のスタッフたちは「普通に面白い映画を作ろう」という職人的マインドで制作に臨んだと思われる。たとえば、この映画について、主演のリーアム・ニーソンが非常に分かりやすい証言を出している。公開から数年後のインタビューで、「制作時には、正直これはDVDスルーだと思った」という。つまり劇場で公開されずに、そのままレンタルショップに並ぶと考えていたのだ。 ところが蓋を開けてみればDVDスルーどころか、映画は全米No.1の大ヒット。制作費2,500万ドルに対して、全世界興行収入は2億ドルを超えた。単純に考えて、予算に対して10倍以上の成果が出たのである。そして今でも「なめてた相手は殺人マシーンでした映画(Ⓒギンティ小林さん)」の傑作として、同作は広く世界中で愛され、熱狂する人間は後を絶たない。さらに、この映画を皮切りに「なめてた相手は殺人マシーンでした映画」が爆発的に増えた。ウォンビンがカッコよすぎる『アジョシ』(10)や、デンゼル・ワシントンが処刑人と化す『イコライザー』シリーズ(14~23)などは、『96時間』の成功があったから作られた映画だろう。 世界中で大ヒットし、世界中に影響を与えた。作り手の想像を超えて、何故こんな奇跡が起きたのか? 今回はこの映画の魅力を振り返り、その理由を分析していきたい。