宿泊キャンセル多数…消えゆく北アルプスの雪渓、地元に衝撃 急速に進む気候変動で少ない雪は当たり前に 安全や水の確保に懸念
春の残雪が少なく、融雪が早く進む傾向は北ア南部にも広がっている。
「異常」が「普通」に
背後に奥穂高岳(3190メートル)や前穂高岳(3090メートル)などがそびえる岳沢小屋(2170メートル)の支配人・坂本龍志さん(56)によると、4月の小屋開けの際、残雪が少ないと感じるようになったのは2018年ごろから。例年なら雪に埋まっている小屋の屋根が露出している年が増えていった。「当初は雪が少ない年が異常だと思っていましたが、近年はそれが普通になってきている」。こうした中、昨年春と今春は「極端に雪が少なかった」という。
早まる夏の水枯れに懸念
春段階で雪渓が小さいと、夏の水確保に影響する。岳沢小屋は上部にある雪渓を第1水源としており、例年ならこの雪渓が消える8月末までは使えるものの、昨年は20日ほども早い8月7日で水が枯れ、第2水源への切り替えが必要になった。節水のために、生ビールの提供をジョッキからプラスチック容器に替えたほか、食器も使い捨ての紙容器にした。 坂本さんは「雪渓は水源であり、雪渓がさらに小さくなっていくと今後の水確保が心配になる」と話している。
専門家「降雪の状況、調べる必要ある」
「山岳域にはどれくらいの雪が降って、それがどんなペースで解けているのか調べる必要がある」。信州大学の「信州山の環境研究センター」(松本市)の鈴木啓助所長(信州大名誉教授)=山岳環境学=はこう指摘する。 地域気象観測システム(アメダス)のような点の観測に加えて、上空からのレーザー観測による面的なデータ収集が有効という。降雪量は地形や局地的な風によっても大きく変化する。さらに斜面にたまった雪は雪崩によって下方に移動する。こうした変化を流域ごとに把握することができれば実用性の高いデータになる。
山は気象観測の空白域
ただ、降雪のデータ以外でも、北アなどの山岳域は気象観測の空白域となっているのが実情だ。これをカバーしようと、同センターは10年以上前から長野県内の山岳域に気象観測器を設置。現在は北アや中央アルプス、車山、志賀高原などの13地点で気温や風向・風速、日射量、降水量などの基礎データを収集している。 同センターは鈴木所長の研究室が事務局になっており、「観測には費用とマンパワーが必要で、研究室の単位で一定の観測を続けるのは難しい」と話す。降雪や雪渓の調査は水資源を把握する上でも大切なデータになることから、「国主導による観測ができないだろうか」と展望する。