聞く読書「オーディオブック」 静岡県内公立図書館で初導入 プロが朗読、来館不要で読書身近に
富士市は10月から、プロのナレーターや声優が朗読した音声データをオンライン上で配信する「オーディオブック」サービスを静岡県内の公立図書館で初めて本格的に導入した。来館して資料を借りたり、文字を目で追ったりする必要がないため、仕事や家事に追われる現役世代や、視覚障害者の読書のハードルを下げることが期待されている。 京セラコミュニケーションシステム(京都府)が提供するシステムを導入し、現代小説や児童書などの朗読作品約7400点(20日時点)を同市立図書館のサイト上で公開した。利用者はスマートフォンなどでサイトにアクセスし、検索画面から聞きたい作品を自由に選ぶ仕組み。配信期限はなく、複数人が同時に再生することもできる。順次新作が追加されるという。 市立中央図書館によると、病気などで文字を読んだり来館したりすることが難しい人々からの需要や、子育て中の親や通勤・通学者の“ながら読書”を想定して導入を決めた。同館では視覚障害のある利用者に音声や点字資料を貸し出しているが、煩雑な手続きや専用の機器が必要だった。今後はより読書バリアフリー法に対応した読書環境が提供できるという。 目下の課題はサービスの周知だ。すでに導入済みの電子図書館サービスについて、市が6~7月に市民100人を対象に行ったアンケートでは、62人が存在自体を「知らなかった」と回答。利用方法が似ている新サービスでも同様の状況に陥る可能性が高く、担当者は「県外図書館の成功事例を参考に効果的な周知方法を実践していく」と話す。 ■他市町が関心 課題は予算と周知 県内初となる公立図書館でのオーディオブック導入に、他市町の司書からも関心が集まっている。 電子図書館の利用者から、AIによる読み上げ機能の誤読を指摘されることがたびたびあったという静岡市立。担当者はプロの正しい読みと発音で聞ける新サービスに興味を示し、「予算面の課題はあるが、富士市の実績を参考に導入を検討したい」と話した。 2016年に県内自治体で初めて電子図書館を導入した磐田市立も検討段階。予算不足やラインアップの古さなどの懸念をあげ、「利用者に受け入れられるかが課題」と指摘する。 専修大文学部の野口武悟教授(図書館情報学)は、「タイパ(タイムパフォーマンス、時間効率)を求める若者から小さな文字を読みにくい年配者まで需要があるサービス」と公立図書館が運用する意義を説明。一方で、非来館者にこそ使ってほしい機能であることから、駅やショッピングセンターなどでのアピールが必要という。他県には積極的に地元メディアに露出して周知する館もあるといい、「民間との連携も視野に入れ、館外への広報を工夫してほしい」と求めた。
静岡新聞社