石川県・珠洲市の銭湯を継承中に被災。崩れた街で葛藤しながら生きる移住者の現在地
人と人とを繋ぐゲストハウスをオープン
田舎への移住で最も重要なのが地元民との人間関係だ。新谷さんたちは移住した際に区長へ挨拶をし、地域の活動や祭りにも積極的に参加することで土地に溶け込んでいった。 「珠洲にコミュニティスペースを作りたいと考えていたので、飯田町の海の目の前にある一軒家を購入し、『ゲストハウス仮( )-karikakko-』を始めました。そこも今回の地震と津波でやられてしまったんですけどね。
他にも寿司店の跡地を借りて大好きなラーメンを提供したり、芸術祭の裏方として働いたり、デザインの仕事を手伝ったり、日々目の前のことに応答することが仕事というか。珠洲にはやりたいことがあるから“いる”というより、自然と“住んでいる”って感じですね」。 一貫性のないキャリアにも思えるが、田舎での暮らしはマルチワークが基本である。珠洲の地元民も、漁業に農業、観光業と時期によって仕事も移り変わる。形は変われど、プレーヤーとしての生活が営まれている。
「アート活動もしていますが、作品を作るというよりは日々の暮らしの中にアートを見出しています」。
移住者仲間がきっかけで「あみだ湯」継承へ
新谷さんの珠洲移住に続くように、同年代の若者がこの地に住み着くようになった。移住者仲間で立ち上げたプラットフォームが中田文化額装店、通称・ガクソーである。 ガクソーはNPO法人として子供たちへの教育支援をはじめ、地域の人が交わるサードプレイス、表現活動などを行う文化拠点である。 そんなガクソーの理事長である北澤晋太郎さんとの出会いによって、新谷さんの活動もより広く、深度を増していった。
新谷さんと北澤さんは同年代でほぼ同時期に移住したこともあり、はじめは遊び仲間のひとりだった。 「ザワ(北澤さん)は2018年頃から家庭教師のような感じで高校生に勉強を教えていたのですが、ある日、親御さんから、『珠洲で過ごすだけでは出会えない大人がいる。いろんな価値観や生き方を教えてくれるとうれしい』と言われたらしいんです。 それがきっかけで、ザワ自らが理事長を務めるNPO法人を立ち上げました。僕はそこで、アートプログラムの寺子屋美術部を担当することになりました」。