逮捕に自殺……韓国大統領に繰り返される悲劇は断ち切れるか
(3)最高検察庁の「独走」
そして最後に、韓国では政治家の不正を追及する立場にある最高検察庁そのものが、政治的な行動に向かいやすいことです。 英語圏では、犯罪を調査する権限は警察に、被疑者を起訴する権限は検察にと、役割分担があり、日本もこれをモデルにしています。一方、フランスやドイツなどでは、検察の監督下で警察が調査するタテの関係が明確です。韓国の場合、このヨーロッパ大陸型に近いのですが、それがさらに徹底されています。 検察が犯罪捜査を「独占」する制度は、政治犯を強権的に取り締まっていた軍政時代に確立。しかし、民主化後も、調査する権限と起訴する権限を握る最高検察庁は、高い独立性を保ってきました。例えば、検察が不起訴の判断をした場合、その説明責任を求められることはなく、検察の不祥事などを調査する常設の機関もありません。議会は検察を調査する独立委員会を設ける権限をもちますが、実際に設置されることはめったにありません。 つまり、「高い独立性」をもつ検察は、誰を検挙するか、検挙しないかの判断を一手に握っているのです。 これは一見したところ「政治と距離を置いた司法の独立」と映りますが、韓国では検察の判断がその時々の政治状況の影響を受けたものになりがちです。全斗煥氏や盧泰愚氏が退任後に逮捕されたことや、廬武鉉氏がやはり退任後に取り調べを受けたことは、前任者と関係の悪い現職大統領の意向を反映したものといえます。最高検察庁は現職大統領を支える尖兵としての顔をもつのです。 しかし、先述のように、現職大統領の親族や側近が逮捕・起訴されることも珍しくありません。その場合、それぞれの大統領が任期末にレームダックになったところを見計らったように検察が動くことが一般的です。つまり、世論の動向と権力交代のタイミングが検察の判断に大きく作用しているのであり、それは本来の司法機関としての判断とは別のものといえるでしょう。これは韓国の歴代大統領が悲惨な末路をたどる最後の一手になってきたのです。