ジェーン・スー 最近よく耳にする「フェムテック」が「産業」なのがどうしても引っかかる。女性なら誰しも陥る可能性がある不調の解決が、金次第になるのはいかがなものか
ジェーン・スーさんが『婦人公論』に連載中のエッセイを配信。今回は「女性の不調」について。50歳を過ぎたら体調不良の日ばかりになったというスーさん。そんな女性が抱える健康上の問題をテクノロジーで解決するサービスや製品を指す「フェムテック」が「産業」扱いされているのが、どうしても引っかかるそうでーー。 * * * * * * * ◆週の半分はダルい 50歳を過ぎたら、体調の良い日なんて数えるほどになるとは聞いていた。だから、覚悟は決めていた。しかし、百聞は一見に如かず。仕事を抱えすぎている事実を脇に置いたとしても、週の半分はダルい。 さすがにこの号が発売される頃には寒くなっているはずだが、原稿を書いている11月頭現在、東京の最高気温は27度を記録し、2日続けて夏日という観測史上初の事態に見舞われている。ただでさえダルいのに、ダルさに拍車がかかる。もう、いっそのこと定年を55歳に戻してほしい。自営業者なので、そんな悠長なことは言っていられないのだけれど。 そろそろ終わりを迎えるはずの生理も、ここにきて中学時代のそれを彷彿とさせるような重さに変わった。ホルモンバランスが崩れたせいだろう。婦人科検診を受けているので異常がないとはわかっているものの、「これが陣痛だよ」と言われたら「やはり、そうでしたか」と返答したくなるほどの痛みが襲ってくることもある。トイレで思わず、「生まれる!」と叫びそうになった日もあった。 念のため経産婦の友人に尋ねてみたら、陣痛は生理痛の千倍くらいとの答えだったので、私の痛みなんかまだまだお子ちゃまだ。何人も子を産んでいる女性を心から尊敬する。そして、妊婦が自由に無痛分娩を選べるようになってほしいと切に願う。
◆そうでなくちゃ困る そんな話を30代半ばの女性にしたら、彼女は現時点ですでに体調不良の日ばかりだと言う。低気圧の日は必ず頭痛が襲ってくるし、生理の日はかなりしんどい。それでもフルタイムで働いているというのだから、頭が下がる。 最近は「フェムテック」という言葉をよく耳にする。英語のFemale(女性)とTechnology(テクノロジー)を掛け合わせた造語で、女性が抱える健康上の問題を、テクノロジーで解決するサービスや製品を指す。 それはいいのだが、どうやらフェムテックは「産業」らしいのだ。経済産業省にもフェムテックのサイトがあって、「人に話すことをタブーとされた女性の健康やライフイベントに関わる悩みをひとりで我慢せずに“みんな”で共有し、助け合う『新しい当たり前』をつくるムーブメントにもなっています」とも書いてある。素晴らしい。素晴らしいが、「産業」なのがどうしても引っかかる。 産業を「デジタル大辞泉」で引いてみると、「生活に必要な物的財貨および用役を生産する活動」とあった。つまり、国がどれほど産業をサポートしようとも、その活動に対価を払う人が必要なのだ。当然、それは女になる。企業が福利厚生的に取り入れることもあるだろうが、そんなのは大企業だけだ。 フェムテック産業は2025年には5.5兆円規模の市場になるらしい。市場かあ、とため息が出る。女が健康でいられる日が増えることは喜ばしい。だが、なぜ厚生労働省管轄ではないのか。美容整形を保険適用内にしろと言っているのではない。女性なら誰しも陥る可能性がある不調の解決が、金次第になるのはいかがなものかと言っているのだ。 あと5年もすれば、男の更年期も産業としてターゲットになるだろう。それまでに、男女の給与格差が縮んでいることを願う。どっちも産業にするなら、そうでなくちゃ困る。産業が拡大すれば、医療が連動してくる場面もあるだろう。そうでなくちゃ困る。
ジェーン・スー
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