“1ドル=240円時代”米ツアー取材の過酷実態とは!? 昭和のゴルフ記者は“命の危険”を冒して岡本綾子を追った【小川朗 ゴルフ現場主義】
プロゴルファーが襲われた殺人事件も
しかし、夜が明けてしまえば仕事は待ってくれません。この日は木曜日。4日間トーナメントである米女子ツアー「エリザベス・アーデン・クラシック」の大会初日です。岡本綾子選手と日陰温子選手が出場しており、試合の結果を東京の本社に送らねばなりません。プレスセンターで寝落ちしそうになりながら、何とか仕事を終えたのを記憶しています。
日中、マイアミのショッピングモールに出かけ「Radio Shack」という電気店で、赤外線の防犯用アラームを買ったのを記憶しています。その前を人や動物が通ると、反応してアラームがなるというスグレモノ。これを毎晩、ドアのところに置いておくことにしました。しかし、いかんせん安モーテルであるため、部屋が狭いのです。そのため夜中に起きてトイレに行く際、自分が赤外線の網に引っかかってしまい、アラームが鳴り響き心臓が止まりそうになる経験を何度もしました。そんななか週末を迎え、試合は岡本選手が13位タイ、日陰選手が34位タイという成績で終了しました。 強盗襲来の瞬間、激しく動揺した原因が、実はもう一つありました。1週間前の1月26日、24歳の現役女子プロゴルファーであるジュリー・ウォルドが、フロリダの自宅で惨殺される事件が起きたばかり。フロリダ州ゲインズビルの自宅アパートで18歳の男性に斧で惨殺されたという事件を取材して、東京の本社に送ったばかりだったのです。 実は私も、この日が24歳の誕生日。同い年の被害者は岡本選手の親友であるパティ・リゾ(マイアミ大出身)の後輩でもあり、悲しみに打ちひしがれる姿を見て胸が痛みました。マイアミのダウンタウンは相当に物騒なところで、1990年には豪州の有名女子プロであるジャン・スティーブンソンも、NBAの試合観戦に行った際に駐車場で暴漢に襲われ、左手薬指を負傷する事件も起きています。 長々とこんなことを書いたのは、これほど危険なマイアミのダウンタウンの、安モーテルに泊まらざるをえなかった原因が円安にあったからです。当時、私が所属していた東京スポーツ新聞社の海外出張規定は1日2万5000円およびレンタカー代は週300ドルというもの。米国内で移動の航空運賃はクレジットカードで支払い、帰国後に精算というものでした。 当時は1ドル240円の時代。1泊100ドルのところに泊まったらほとんど残りません。昼食はゴルフ場でランチバイキングがありますが、朝夕の食事代も含まれます。となれば宿泊費ではできるだけ抑えておきたいという懐事情からの選択だったわけです。 確かソフトドリンクが1ドルで1本240円、当時吸っていたマルボロライトが1ドル75セントだから420円。日本で缶ジュースは100円、セブンスターは200円だった時代です。ジュースが2.4倍、タバコが2.1倍という時代でしたから、高いホテルには泊まりたくとも泊まれなかったのです。