ドラマ史上に残る名演技も…総理大臣の社会見学『民王R』に背中を押されるワケ。 考察レビュー
カリヤン&田中丸コンビのコミュ力が入れ替わりを支える
このドラマの精神的支柱が、狩屋官房長官、通称、カリヤンである。9年前の『民王』でも、翔(菅田将暉)がどれだけバカな回答をしようが、キレもせず「まあまあ、ね、大丈夫」と苦笑いしながら横にいてくれた。カリヤンがいなければ、翔君はストレスで床に伏せってしまっていたことだろう。 今作でも、心の広さは1ミクロンも変わっていない。秘書の冴島が「初対面でちゃんづけする失礼な人」と嫌味を言えば、「申し訳ない」とすぐ謝る。 第2話で木下(総理の顔)が「若者の孤独対策案について教えてください」と言えば、ヘロヘロでもイヤな顔せず、「狩屋塾、開講するか」と笑顔で一から教えてくれる。絶対裏切らない、支えてくれる。教えてくれる。最高(泣)。 私の中で、ドラマ『無能の鷹』(テレビ朝日系)で井浦新が演じる上司・鳩山、と並んで今クールドラマにおける「上司になってほしいランキング第1位」である。 演じる金田明夫は、内藤剛志主演の超名作刑事ドラマ『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)シリーズの「見つけのヤマさん」も最高だった。トップをサポートする役割を演じさせれば日本一である。 そして、このカリヤンを受け継ぐのが、田中丸(大橋和也)。共感力と柔軟性に長けた書生を、大橋が伸び伸びと演じている。 第2話のラスト、入れ替わりが戻った後、全員がホッと安心するなか、ひとり木下の「その後」を心配し、第3話では「5歳ですよ。不安なはずですよ」と、泰山の姿になってしまった信太をかいがいしく面倒を見るのだ。 「大きな栗の~木の下で。パァッ……♪」の「パァッ……♪」に心奪われた人も多いはずである。あれはかわいいぞ! 狩屋、田中丸コンビのニュートラルな感性は、本当に羨ましい。どんな入れ替わりがこようとも、ナチュラルに受け止める彼らが、『民王R』を温かくしている。
入れ替わりの首謀者は本当にテロ組織?
行き先と日程が選べない、総理大臣の社会見学『民王R』。いつの時代も、事件は会議室で起きているんじゃない、現場で起きているのだと見せつけてくる。 第1話は冴島を演じるあの、第2話では、木下を演じる曽田が、エネルギッシュな泰山をものすごく気持ちよさそうに演じていた。泰山と入れ替わっている、という設定ではあるものの、「一国民が政治家に向かってはっきりと思っていることを言う」姿は見ていて爽快だ。 第3話では、信太の母親が、アメリカのバーガー大統領に向かって直接怒る。 「だからそんなもん(兵器)、買う余裕なんかないっつってんだよ!!」 ああ、スッキリ! 役とはいえ、演じた東野絢香もスッキリしたことだろう。しかもバーガーはそれを聞き入れ、兵器購入の約束を破棄する。 「どうせ何を言っても届かない、変わらない? いや、そんなことはない」と、ドラマを通して背中を押される。『民王R』は、政治家が一般市民の生活を疑似体験できるだけでなく、視聴者にとっても、お偉方に声をあげるシミュレーションができるドラマなのだ。 次回はおばあちゃんと入れ替わり。しかし、田中丸が「どの入れ替わりもタイミング良すぎませんか」と不気味がる通り、この入れ替わりの首謀者は、テロ組織というよりは、大統領に現状の世の中を知ってほしい人物かも…。 そして、世界中を探検している貝原茂平(高橋一生)が、意外な場所でマイクロチップの流通経路の真実を掴んで帰国すると予想! 私の予想は、あんまり当たらないのでアールが…。 【著者プロフィール:田中稲】 ライター。アイドル、昭和歌謡、JPOP、ドラマ、世代研究を中心に執筆。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)『昭和歌謡出る単 1008語』(誠文堂新光社)がある。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」を連載中。「文春オンライン」「8760bypostseven」「東洋経済オンライン」ほかネットメディアへの寄稿多数。
田中稲