ドラマ史上に残る名演技も…総理大臣の社会見学『民王R』に背中を押されるワケ。 考察レビュー
この20年で呪縛と化した「自己責任」
「自己責任」という言葉がユーキャン流行語大賞トップテンに選ばれたのは2004年。同年4月に発生したイラクにおける邦人人質事件がきっかけだ。 紛争中だったイラク地域にボランティアに行き、武装勢力により拘束された日本人数人に対し、政府の勧告にしたがわず危険地域に入ったという「自己責任」バッシングが起き、この言葉が一気に広まった。 それから20年経った現在、意味は拡大し、自分のせいでないことも「こうなったのは自己責任」と抱え込む風潮が続いている。もはや呪縛。本来ならトライアンドエラーで成長していく若者からトライの精神を奪っていっている。 木下の姿になり、日常を体験した泰山が、しみじみというセリフがある。 「かつて俺たちがバリバリ働いていた頃、活力があったと思わないか。それはきっと、頑張って働けば幸せがあったからだ。希望が持てたからだ。でもこんな世の中で、自己責任と片付けられて、希望をどうやって持てばいい? 苦しみを分かち合えない、疲れて転職活動する気力もない」。 そこだよ、そこなんだよ泰山(泣)。この回の放送が終わったあと、公安の新田を演じる山内圭哉さんが、Xの公式アカウントにて「一番観てほしいのは政治家」(10月29日)とコメントを出していた。 本当に思う。同感です、新⤴︎田くん…!
泰山を演じきった子役に驚愕! 第3話
第3話は再選を果たしたバーガー大統領との会談直前という最悪のタイミングで、まだ政治のセの字も知らない、5歳児・信太君(吉本凪沙)と入れ替わる。 しかし、幼児の目線で見える世界(保育園の人間関係、ままごと、お母さんへの気遣い)は小さな社会! 彼だけでなく、彼を見守る保育士さん、そしてシングルマザーとして育てる母親の苦労も細かく描かれていた。 「寂しいけど寂しくないもん。寂しいって言ったらお母さん困るから」 母親も、子どもがそうやって我慢しているのは充分わかっている。それでも時間のやりくりは難しい。楽しみにしていたショートケーキさえも食べるタイミングがずれてしまうシーンは、本当に切なかった。 思いだしてみれば、前作『民王』でも、泰山と息子の翔が入れ替わり中、ウズラスキスタンの大統領・ガードナー氏との重要な外交が行われ(第2話)、ガードナー氏が心を開くきっかけとなったのが、アニメ「モフモフン」だ。今回のバーガー大統領も、ロボットに喜び、童心に戻ることで外交がうまくいった。 もちろん、リアルでこんなことはあるわけない。けれど、大人が難しく考え過ぎているだけで、実は意外とシンプルなきっかけで心が通じるかもしれない、と希望を持ってしまう。 子どもだけでなく、子どもを取り巻く親や職場の環境も細やかに描き、いろいろ考えさせられた第3話。ただ、これを成り立たせるには、エンケンを完璧に演じる5歳児が必要なので、いやもう、キャスティングに困ったのではないだろうか。…と思いきや、見事泰山をやりきった吉本凪沙、天才である。 保育園に公安の新田が現れたときの、彼が見せたチビ泰山のドヤ顔は、今後ドラマ史上に残る名演技として語り継がれてもいいだろう。