『ツイスターズ』28年ぶりに蘇った、スピルバーグ・トリビュート映画 ※注!ネタバレ含みます
リー・アイザック・チョンの抜擢
『ツイスターズ』を再起動させた人物は、ジョセフ・コシンスキー。『トロン: レガシー』(10)、『オブリビオン』(13)、『トップガン マーヴェリック』(22)などで知られる、いま最もその一挙手一投足に注目が集まるフィルムメーカーのひとりだ。彼はスピルバーグ率いるアンブリン・エンターテインメントに企画を売り込み、脚本家のマーク・L・スミスとタッグを組んでストーリーを開発。2022年に脚本が完成すると、ジョセフ・コシンスキーは別企画のためにプロジェクトを離脱。代わって、リー・アイザック・チョンが招聘される。 韓国系の移民二世である彼は、アーカンソー州とオクラホマ州の州境の近くで育った。イェール大学で生物学を学んだあと、ユタ大学で映画製作を専攻。いくつか野心的な作品を発表したものの興行成績はふるわず、家族を養うために韓国に戻って教師になることを決意。引退作と覚悟を決めて撮った半自伝的映画『ミナリ』(20)が、サンダンス映画祭でグランプリと観客賞に輝き、93回アカデミー賞でも6部門にノミネート。引退間近だった無名監督が、一気に世界的なフィルムメーカーへとのし上がった。 韓国系一家のファミリー・ドラマを手がけた男に、ビッグ・バジェットのディサスター・ムービーをオファーするというのは、やや意外な気がしなくもない。だがアンブリンの共同創業者でありプロデューサーのフランク・マーシャルは、彼こそが『ツイスター』の続編を任せるのにふさわしい人物であると確信していた。ストーリーを構築する力、キャラクターを生き生きと躍動させる演出力、卓越したユーモアのセンスを『ミナリ』に見出したからだ。 懸念があるとすれば、CGやアクションを扱える人材であるかどうかということ。フランク・マーシャルは、妻のキャスリーン・ケネディに意見を求める。アンブリン共同創業者のひとりであり、現ルーカスフィルム社長でもある彼女は、リー・アイザック・チョンが「マンダロリアン」シーズン3(23)で見事な手腕を発揮していたことを知っていた。その実力は、『スター・ウォーズ』シリーズでも証明済み。もはや彼の抜擢に不安要素はなかった。 リー・アイザック・チョンにとっても、『ツイスターズ』のような映画は念願だったという。 「『ミナリ』は、最後の努力だと思っていた。映画監督としての道がこれで終わるのであれば、自分にとって最も重要な物語を作って終わりたかったんだ。幸いなことに、辞める必要がないほどうまくいったけどね。(中略)『ツイスターズ』は、映画監督になりたいという夢を見させてくれるようなタイプの映画だ。ずっとアクション映画をやりたかったんだよ。スケールの大きな仕事がしたかった。複数の登場人物の関係や運命が絡み合う物語が好きなんだ」(*2) 結局企画は頓挫してしまったものの、新海誠監督の『君の名は。』(16)の実写リメイク版は、彼が手がけることになっていた。果たすことのできなかった災害パニック映画を作る夢を、『ツイスターズ』は叶えてくれたのである。