『ツイスターズ』28年ぶりに蘇った、スピルバーグ・トリビュート映画 ※注!ネタバレ含みます
『ツイスターズ』あらすじ
※本記事は物語の結末に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。 気象学の天才ケイトはニューヨークで自然災害を予測し被害を防ぐ仕事に熱中していた。そんな中、故郷オクラハマで史上最大級の巨大竜巻が群れをなして異常発生していることを知る。竜巻にトラウマを抱えたケイトだったが、学生時代の友人ハビからの懸命の依頼で、夏休みの一週間の約束で竜巻を倒すために故郷へ戻ることに。そこで出会った知識も性格も正反対の竜巻チェイサーのタイラーら新たな仲間と、無謀ともいえる<竜巻破壊計画>に立ち向かっていく。
スクリューボール・コメディのグルーヴ
『ツイスター』(96)といえば牛。牛といえば『ツイスター』。今から28年前、劇場でこの映画を目撃した者は、牛が竜巻で吹き飛ばされていく場面が脳裏に焼きついていることだろう。強烈すぎるビジュアルのインパクト。巨大トルネードに立ち向かう観測チームの姿を描いた『ツイスター』は、間違いなく90年代を代表するパニック・ムービーである。 監督を務めたのは、『スピード』(94)や『トゥームレイダー2』(03)を手がけたヤン・デ・ボン。脚本を務めたのは、『ジュラシック・パーク』(93)の原作小説を書き、『ウエストワールド』(73)や『未来警察』(84)の監督・脚本でも知られるマイケル・クライトンと、当時の妻だったアン=マリー・マーティン。製作総指揮を務めたのは、我らがスティーヴン・スピルバーグ。スペクタクル超大作にふさわしい鉄壁の布陣によって、脅威の竜巻映画が完成した。 だがヤン・デ・ボンは、非常に興味深いコメントを残している。米メディアVultureのインタビューによれば、マイケル・クライトンがシナリオ執筆にあたって参考にしたのは、ハワード・ホークス監督の『ヒズ・ガール・フライデー』(40)だというのだ(*1)。テニスにおけるラリーの応酬のように、ケーリー・グラントとロザリンド・ラッセルが丁々発止のやりとりを繰り広げる、スクリューボール・コメディの傑作。『ツイスター』の骨格を成していたのは、実は軽妙洒脱な会話劇だったのである。 確かによくよくこの映画を観てみると、ストーム・チェイサーのジョー(ヘレン・ハント)と気象予報官のビル(ビル・パクストン)は離婚間近の夫婦という設定で、車のなかではしょっちゅう口喧嘩。だが巨大竜巻との戦いを通じて、お互いが大切な存在であることを再確認していく。ビルの婚約者メリッサ(ジェイミー・ガーツ)を巻き込んだ、恋の三角関係。パニック映画としてコーティングされてはいるものの、大枠の構造はスクリューボール・コメディなのだ。 長い時を超えて再び蘇った新章『ツイスターズ』(24)にも、そのグルーヴは息づいている。気象学者のケイト(デイジー・エドガー=ジョーンズ)、その友人のハビ(アンソニー・ラモス)、竜巻YouTuberのタイラー(グレン・パウエル)による、恋の三角関係。お互いを出し抜こうとする、ケイトとタイラーのやりとり。さすがに前作ほどのスクリューボール・コメディ感は薄まり、だいぶシリアスなトーンになってはいるが、大枠は洒脱な会話劇であり、竜巻オタクというギーク同士の恋物語である。 むしろ、トルネードというアクション要素はーーーあえて乱暴を承知で言うならーーー登場人物に恋愛感情が吹き荒れていることの、壮大な比喩的表現なのではないか?と思ってしまうほど。竜巻災害という重いテーマを扱っているにも関わらず(しかも『ツイスターズ』の場合、それによって多くの仲間を失っているという設定だ)、どこか明るい陽性の魅力を放っているのは、そんなところに起因しているのかもしれない。