為替は1ドル160円目前に:円安への警戒を強める日銀(日銀主な意見)
為替介入の効果が時間とともに減衰し再び1ドル160円に
24日の東京為替市場は、1ドル160円目前の水準で終えた前週末の海外市場の流れを引き継ぎ、1ドル159円台後半と1ドル160円目前の水準で推移している。4月末には1ドル160円10銭台まで円安が進み、その直後に政府はドル売り円買いの為替介入に踏み切ったとみられる。そのため、1ドル160円の水準が近づくと市場では為替介入への警戒感が強まり、それが一段の円安を食い止める効果がみられる。 しかしながら1ドル160円台乗せは、もはや時間の問題だ。足もとで緩やかに進む円安は、特定の材料に反応したものではなく、4月末の政府の為替介入の効果が、2か月弱が経過するなかで次第に減衰してきたことによるものだ。 為替介入を巡って日本の財務省と米国の財務省の間には軋轢が生じており、米財務省は「為替介入はまれであるべき」として日本の為替介入をけん制している。しかし、国内企業や国民からは物価高を助長し経済に悪影響を与える円安を食い止めるように政府への要請が強まっていることから、160円を超えて円安が進めば、政府は為替介入に踏み切る可能性が高い。 それでも、為替介入は時間稼ぎでしかないことから、1ドル160円の水準を防衛することは難しく、いずれは1ドル165円の攻防になると考えられる。 他方、米国では雇用、消費、物価関連指標に軟化の兆候が見られている。こうした傾向が続けば、9月にも米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げに踏み切るとの観測が強まることになるだろう。その時点で、円安の流れには歯止めがかかると考えておきたい。政府は1ドル160円の水準を守ることは難しいが、165円は何とか防衛できるのではないか。
7月会合の焦点は円安への対応
24日には日本銀行が6月13・14日に開いた前回の金融政策決定会合における政策委員の「主な意見」が公表された。7月の次回会合で決定する国債買い入れ減額の具体策については、言及はなかった。 他方、金利政策についての意見では、円安についての言及が目立った。日本銀行は為替を目標にしていないことから、「円安を止めるために利上げをすべき」といった意見は示されなかったが、それを示唆する意見はいくつか見られた。円安への対応では、円安で物価が押し上げられ、2%の物価目標達成の確度が高まるのに合わせて金利を引き上げるべきとの見解と、円安は個人消費などに悪影響を与えることから、そのリスクを軽減するために金利引き上げで対応すべき、との2種類の見解が暗に示されたと考えられる。 いずれにせよ、日本銀行は円安に対する警戒を強めていることは確かだ。この先、円安がさらに進めば、円安を食い止めることも暗に狙って、7月には国債買い入れ減額と同時に、日本銀行が追加利上げを実施するとの観測が強まる可能性があるだろう。 他方、長期化する恐れもある円安を意識すれば、日本銀行は政策を小出しにすることで、円安のけん制効果を持続させようと狙う可能性も考えられる。この場合には、7月には国債買い入れ減額のみを決定し、そのうえで9月以降の追加利上げを示唆することも考えられる。現状では後者の可能性の方を高く見て、追加利上げは最短で9月と考えておきたい。 国民支持率と9月の総裁選への影響も踏まえ、政府が総裁選前に国民に不人気な利上げを望んでいないことも、日本銀行の追加利上げを当面制約することも考えられる。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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