<農協改革> JA全中は何が「特別な組織」なのか? 早稲田塾講師・坂東太郎のよくわかる時事用語
地域農協への監査権めぐり攻防
JA全中の役割は、一言でいえば「指導」です。農協が健全に発達するよう組織や事業を指導・教育したり(業務監査)、ずさんな経営になっていないか監督し検査(会計監査)します。全国の地域農協に対するJA全中の影響力は、この監査・指導権限によるところが大きいとされています。 その性質上、農家のほとんどが入っている農協の集票力をバックにして政府に要求する圧力団体の側面もあります。日本ではおおむねJA全中の意見を自民党国会議員が代弁して“蜜月関係”でした。行政を担う農林水産省とは微妙な距離感はあるものの政府の一員として基本的に一体に近い状況でした。 ところが自民党中心の安倍政府が2015年1月に始まった通常国会で農協法改正案の提出を予定し、JA全中に「特別な組織」から「一般社団法人」への転換を促す、と報じられています。一般社団法人とは公益法人改革で生じた最近の概念で、ザックリいうと株式会社と同じ。違いは株式会社が会社への出資者(株主など)に利益を分配するのに対して、一般社団は出資者(組合員など)に利益を分配できない、ということぐらい。社員2人で設立可能で、官庁の許認可も必要ない代わりに課税などは株式会社同様になされます。 要するに格下げです。そして、監査や指導権は失われそうです。政府は公認会計士による一般の監査法人かJA全中から分離した監査法人のどちらかを選択できるようにする代替案も準備していますが、JA全中は当然のごとく猛反発している状況です。
農業衰退はJA全中の指導のせい?
でも自民党の大票田のはずの農協組織トップに自民党政権がケンカを吹っかけるのはなぜかという疑問も残ります。最も連想しやすいのは政府が推進する環太平洋パートナーシップ協定(TPP)にJA全中が断固反対しているので反省させようとの狙いです。まったくないとはいえないものの、TPP交渉で日本が農産品重要5品目を守る立場にあって、それが交渉を難しくしているという側面も考え合わせると、すべての原因をTPPで説明するのは無理があるという声もあります。 より本質的な問題として、今の農政が持続不可能であるという点も考慮すべきでしょう。日本の農業就業人口はピーク時の1960年と比較すると16%まで縮小し約240万人しかいません。平均年齢は約66歳。企業の定年にあたる65歳より上の方々が「平均」になってしまっています。農地の10%近くが耕作放棄地になっています。このままでは滅びかねません。 そこで誰に、何に責任があるかと考えたら、JA全中の「指導」「監査」が画一的で、地方の実情に合わせた提案をしても負担が大きいなどと反対されたという報告もあります。戦後に農協が乱立して次々とつぶれていく最中に作られたJA全中は、当初の使命として合併など地域農協の健全運営を求め、時代が変わっても同じようにしているというのが農協改革推進派の論拠の1つ。端的にいうと「JA全中の指導を守っていたら衰退した」のだと。 政権が掲げる「アベノミクス」の「三本目の矢」である「民間投資を喚起する成長戦略」に思ったような成果が出ていないため、安倍首相は農業を「岩盤規制」となぞらえ「ドリル」で破壊し成長産業に衣替えしたいという思惑を隠していません。