斎藤知事「告発文書」への対応はやはり問題だ
筆者自身も調査報道の取材で何十人もの告発者と接した経験がある。それぞれの動機はさまざまだ。上司に対する怨恨や不満、さらには組織内の権力闘争もある。純粋な正義感からの告発はむしろ少数だ。だが、動機よりも大切なのは、告発内容が事実であるかの裏付け取材ができるかにかかっている。 告発者が匿名の場合は、ほとんど記事にすることはできない。接触できても、さらなる協力者を探さないと十分な裏付けにつながらなかったり、相手に否定され、それを覆しても書くだけの材料がなかったりする場合がある。何度も告発者と面会しながらも、お蔵入りになった事件は少なくない。全告発者のうち報道に漕ぎつけられるのは1~2割ほどだった。
消費者庁は同じ資料で、告発の特異性にかんがみて、こう書き加えている。 「公益通報をする者は様々な事情につき悩んだ末に通報をすることが多く、純粋に公益目的だけのために通報がされることを期待するのは非現実的」 片山氏は一貫して「クーデターを図った不正の目的」などの主張を続けている。定義があいまいでわかりにくいから、いろんな解釈が出てくるのは、ある意味で法の不備でもある。しかも最終的に不正の目的であるかどうかは解釈の問題なので、裁判で争わないとなかなか結論が出ない。
■最も重要なのは真実相当性 通報者が保護されるべき条件は、ほかにもある。同法がいう通報対象事実は、犯罪行為や過料を要する法令違反に限定され、現在は503件の法令がリストアップされている。ちなみに、斎藤知事をめぐるパワハラが大きくクローズアップされたが、パワハラは労働施策総合推進法で規定されていて、刑罰や過料の法令違反につながらないので通報対象にはなっていない。 にもかかわらず兵庫県の財務部がパワハラを公益通報として扱ったのはなぜか。問い合わせてみると、県の職員公益通報制度実施要綱で、法令に準じるものとして「ハラスメント行為」を公益通報事実に加えたからだという。