「怒りを覚えてしまった…」元TBSアナが、統合失調症の女性を家に閉じ込めつづける両親に抱いた思い|映画『どうすればよかったか?』
ある会話から「ごく近所で起きていたかも」と感じさせられた
本作品は、私が生活する札幌の、ある家族の話。 「天気がいいし、定山渓や支笏湖に行く?」という会話の一つ一つが私にとってはとても身近なもので、もしかしたらこの出来事はごく近所で起きていたかもしれないとすら感じさせました。 監督はイベント事を記録すると言う建前で家族の姿を撮り始めますが、年々姉は悪化していきます。弟である藤野監督は勇気を出し父や母と正面から向き合おうとしますが、優しく言っても、強く出ても、ずっと目を背け続けるご両親。 大変申し訳ないですが、その姿には怒りすら覚えてしまった私でした。 お姉さんが発症し始めた当時は、まだまだ統合失調症に関して適切に治療をすればだいぶ快方に向かうという認識が、まだまだ広まっていない時代性があったのかもしれません。 また両親とも研究者といういわゆる「インテリ一家」ならではのプライドなど複数の要素が重なってしまったことがこのような出来事につながったと推察します。 今ですら、「女の子」が医学部に進学することは物凄いこと。ご両親にとって「医学部の娘」はどれだけ誇らしい存在だったでしょう。その娘が人目もはばからず、とんでもない言葉を叫んだり動き回ったりしていると言う現実、どうしても受け入れがたかったのでしょうが……。 時代のせい、という言葉では本当に片付けられませんが、娘のためだと言いながらも、完全に自分たちの世間体のためにその現実から目を背け続けたようにしか私には見えなかったのです。
果たして本当に「本人のため」なのか
晩年、姉はやっと入院することが決まり、適切な治療を受けてだいぶ快方に向かったものの……このような言い方をすると、お姉様にとって非常に酷であることはわかっていますが……貴重な20数年がほぼ失われてしまった現実は変えられないのです。 この映画は一般化できるような話ではなく、また監督ご自身も生半可な気持ちではこの映像を表に出していません。通り一遍の感想だけで私は済ませたくないのですが、自分が、家族のため、友達のためと思って行動したり口出ししているようなことが果たして本当に「本人のため」なのかどうかということを、今一度お一人お一人自分の胸に聞いてほしいと、私は感じています。 世間体や常識、社会、お金、愛という言葉を盾に、実は自分が求める型の中に相手を封じこめようとしていないかと今一度考えるべきだと思うのです。 私は現在、年老いた父と一緒に生活していますが、私はもう父に関しても、また他の親族に関しても一切口出しはしないと決めていますし、その資格もないと思いますし、私が何かをしてあげたいと思うこと自体が自分のエゴだと感じています。 結局は、人生の行末を決められるのは自分だけであり、人生の舵を切ることができるのは、本人以外の誰であってもいけないのです。 もちろんそのような簡単な話で済まされる映画では無いのですが、私はたった一回の人生の舵取りというものに思いを馳せたのでした。 どうすればよかったか、私は何かを断言することはできませんが、皆様はどう感じるか、ぜひご覧いただきたい作品です。 <文/アンヌ遙香> 【アンヌ遙香】 元TBSアナウンサー(小林悠名義)1985年、北海道生まれ。お茶の水女子大学大学院修了。2010年、TBSに入社。情報番組『朝ズバッ!』、『報道特集』、『たまむすび』などを担当。2016年退社後、現在は故郷札幌を拠点に、MC、コメンテーター、モデルとして活動中。文筆業にも力を入れている。ポッドキャスト『アンヌ遙香の喫茶ナタリー』を配信中
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