わずか108馬力でも最高速は250km/h以上! 空力を極めてル・マンに挑んだ「CDプジョーSP66」というど根性マシン
世界最先端の空力テクノロジーを採用
そして、ル・マン仕様ではリヤエンドにツノのように直立するフィンも見どころのひとつ。当時最先端だったエッフェル航空力学研究所で得た知見に発するアイディアで、ユーノディエールの長いストレートでの安定性を狙ったもの。のちに多くの追随アイディアが生まれたことはご承知のとおり。 たとえば、アメリカのシャパラルも空力について画期的なマシンを数多く作りましたが、垂直フィンやその取り付け(車軸上に最大応力がかかる位置)など、ドイチュにインスパイアされたものもいくつかあった模様。 こうした先鋭的なマシンを作ったおかげなのか、プジョーからエンジン供給という援助を得ることになったドイチュ。当時のプジョー204に搭載されていた1.2リッター直4OHVは、ストックで58馬力だったものが、モチュール・モデルネ(Moteur Moderne)なるチューナーによって108馬力にまでパワーアップ! 760kgという軽量も手伝って、ユーノディエールの直線では250km/hの最高速をたたき出しています。 1970年代の空力的プロトタイプカーよりはるか以前にこれだけのパフォーマンスをもたされたのは、やっぱりドイチュの先見性やド根性といわざるを得ません。 もっとも、肝心のル・マンでは最初の1966年は3台がすべてメカニカルトラブルでリタイヤ、翌年も2台がエントリーするも、これまた早々にリタイヤという苦いリザルト。結局、CDプジョーSP66は、プジョー博物館に収まるなど、その後のレース活動はすべてキャンセルされてしまったのでした。 が、ドイチュの空力的な技術力と勝利への貪欲さはレース業界が手放すはずもなく、すぐさまポルシェが自陣営へと誘い込むことに。伝説的な908や917にはドイチュが深くかかわったとされています。その後も、フランスの名門チーム、リジェ(JS11)やアルファロメオ(179)にもCDプジョーSP66に注がれたエアロワークが取り入れられているのです。 なにがなんでも勝ちたい気もちは、先見性を生み出すのと同時に、普遍的な勝利の方程式まで構築するのかもしれません。なお、ドイチュは1980年にこの世を去っていますが、SERA-CDは現在もテクニカルシンクタンクとして活動を続けています。
石橋 寛