綾瀬はるかの目の奧に〝宇宙〟が見えた 「ルート29」森井勇佑監督「彼女でなければならなかった」
現在と生まれる前とが交わった世界
描かれる現実と非現実が溶け合うような世界は、森井監督の死生観も反映されている。「僕たちは現在から死に向かって一直線に進んでいるように考え、それを怖いと感じる。だけど、実は生まれる前の世界もあったと思うんです。現在と生まれる前とが交わった世界を旅したら、どうなるかを撮りたかった」と言う。撮影が終わった後、綾瀬から「死ぬのが怖くなくなった」との言葉を掛けられた。「のり子たちになぜ旅をさせたのか、自分でも分からない部分があった。けれど、その言葉通りと思える、すてきな感想をもらった」 2人の宇宙が近づき、離れるまでの物語を「たった2、3日の刹那(せつな)の出来事。最後に持ち帰るのは、一緒に過ごした時間だけ」と森井監督は説明する。「しかし、それが特別だったと思えたら、生きていく上では十分だと思うんです。そのことが少しでも伝われば」とも。鑑賞して心地よい夢に浸っているような感覚になった私に、森井監督の宇宙が届いたのかもしれない。
毎日新聞大阪学芸部 谷口豪