米中関係の悪化の要因は、首脳陣の政策ではなく社会構造にある─中国の知米派政治学者が見る「根深さ」
いまや世界全体の行方を左右する米中関係。現在の緊張関係は、2024年米国大統領選挙の結果によって変わるのか。台湾、南シナ海、香港など、米中関係が安定の鍵となっている地域は、今後どうなるのか。 【画像】2023年に訪米した習近平 政治学者の李成は、ワシントンD.C.のシンクタンク、ブルッキングス研究所に17年勤務した後、香港大学の現代中国と世界センターの初代ディレクターとなった。米中関係に詳しい彼に、香港紙「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」が聞いた。
関係の修復には時間がかかる
──あなたは数十年を米国で過ごし、米中のつながりを注視されてきました。そこでまずは、結果的に世界に大きな影響を与えるであろう、米中関係についてうかがっていきたいと思います。現時点、特に2023年に両国首脳が会談して以降の米中関係について、どう評価されますか。 2017年後半あたりから、米中関係は悪化しました。ちょうどそのころ、ワシントンでは2つの重大な報告がありました。ひとつは2017年12月に国務省から、もうひとつは翌月の2018年1月に国防総省から。これらの文書は、現行の対中政策は失敗しており、米国が計画、予想したようには事が運ばないであろうという内容です。 後者の文章は、9.11以降の米国の第一の敵はテロリスト集団で、第二は北朝鮮、イラン、イラクなどの、いわゆる「ならず者国家」としています。 そして第三の敵として、「修正主義国家」を挙げていますが、これは中国とロシアの2国のみを指しています。 とはいえ、報告書によれば、20年以上は米本土へのテロリストの攻撃はしっかり抑制され、阻まれるだろうとし、また、米国のミサイル防衛システムによって、ならず者国家による攻撃も差し迫った危険性はないとしています。 したがって、地政学的リスクが中心的な問題に返り咲くはずです。中国とロシアでは、ロシアが地域的なパワーに過ぎない一方、中国は世界規模のパワーを持っています。というわけで、中国こそ最大の課題、あるいは敵だということになります。例の報告書は、そうした政策の変更を示していたというわけです。 その後、ドナルド・トランプからジョー・バイデンへの政権交代にもかかわらず、この2つの報告書に示された路線はしっかり維持されています。 2023年11月のサンフランシスコでの米中会談は、米国の対中政策を覆すものではありません。さらなる関係悪化のスパイラルに陥らないための場を設けたにすぎず、もとの段階には戻らないでしょう。10年前ほどの、きわめて普通の二国間関係に戻るには、とても長い時間がかかると思います。10年から15年はかかるのではないでしょうか。