「来る猫」の事情を見つめ、「行く猫」の暮らしもフォロー
2023年11月にオープンしたとき、地元メディアに多数取り上げられ、その期待の高さをうかがわせた札幌市動物愛護管理センター「あいまる さっぽろ」。「あいまる さっぽろ」という名は、公募によって決まった愛称です。果たしてどのような役目を担って「あいまる さっぽろ」は運営されているのでしょうか。 【写真】「推し猫」は、定期的にX(旧Twitter)に投稿。写真のようなPOP をつくる場合もあれば、写真や動画で紹介している場合も
センターで暮らす猫の事情を見つめて
札幌市動物愛護管理センター「あいまる さっぽろ」(以下、センター)内で猫が暮らす場所は「猫の部屋」3室と「子猫の部屋」1室、そのほかに3~4匹が居住可能な「猫の遊び場」が1室あります。施設全体の収容可能数は、成猫約50匹と子猫約30匹。センターが新たにオープンしたあとには成猫が100匹を超えた時期もあったそうですが、現在は成猫が50匹で子猫はいないそうです。 「人なつこくてかわいい猫はすぐにもらわれていきますが、何カ月もここにいるような引き取られにくい性格の猫が常時20匹以上います。そのため新規で受け入れられる数には限りがあり、市内のどこかで多頭飼育崩壊が起こると一気にあふれてしまうことも。多頭飼育崩壊の発生件数は多く、昨年は9件探知され、50匹以上の規模も3件ほどありました」(同センター獣医師兼指導係 近藤さん) 多頭飼育崩壊の起こる背景は、飼い主さんが社会的孤立、経済的困窮や認知症などの課題を抱えている場合が多いとか。その予防や解決のためには、動物愛護管理の分野だけで取り組むのではなく「社会福祉部門をはじめ多くの機関との連携が求められており、現在、関係部署との連携を模索しているところです」と、近藤さんは話します。 また、札幌市ではここ3年間で飼育放棄による収容数も増加傾向にあり、課題となっています。現在、センターに収容されている猫のほとんどが外猫や迷子猫ではなく、家庭から持ち込まれた猫だそうです。
今できることをコツコツやって進んでいく
センター独自の取り組みに「推し猫」があります。"引き取り手が現れにくそうな猫"をクローズアップし、その特徴を紹介するというものです。 「ただ、猫の特徴を見つけるのは難しい作業です。まず、人になついていなかったり、ひねくれた性格だったりすることもありますよね。また、ふだん私たちは集団で飼育しており、1匹ずつの個性を深く知っているわけではありません。とくに多頭飼育崩壊で40匹くらいの集団で入ってきた猫は、みんな同じ柄だったりしますし」(近藤さん)。 しかし、「推し猫」を発信することで少しでも譲渡の可能性が広がるなら、と職員は忙しい仕事の合間にSNSに投稿しているそうです。 また、引き取った人に、数カ月後に「今はこんな風に暮らしています」と近況報告をしてもらう「あれからずっと家族です」という取り組みも行っています。飼い主さんからいただいた愛のあるコメントの数々は、センターの職員にとっては励みになり、センターからの譲渡を希望する市民にとってはポンと背中を押されるきっかけになるかもしれません。 「ほかにもいろいろな取り組みのアイデアはありますが、人員も限られていますし、なかなか手が回りません。でも、今できる限りのことは全部やって、毎日コツコツと進んでいくだけですね」 そんな近藤さんのお子さんもたまにセンターにやってくるそうで、「子どもなりの感性で、いろいろくみ取っているようです。私も子どもに誇れる仕事をしていきたいと思っています」と話します。子どもたちも、市民も職員も、さまざまな人の思いを集めて「あいまる さっぽろ」は一歩ずつ前へ進んでいきます。 お話しをお伺いした人/札幌市動物愛護管理センター「あいまる さっぽろ」獣医師兼指導係 近藤悠太さん 出典/「ねこのきもち」2024年8月号『猫のために何ができるのだろうか』 写真提供/札幌市動物愛護管理センター「あいまる さっぽろ」 取材/野中ゆみ ※この記事で使用している画像は2024年8月号『猫のために何ができるのだろうか』に掲載しているものです。 ※記事の内容は2024年6月1日時点の情報です。
ねこのきもちWeb編集室