藤井聡太と伊藤匠を下して全国小学生大会を制覇…「もうひとりの天才」が振り返る「藤井少年が泣いた日」
あれほどの天才に出会ってしまったゆえ
川島さんは高校1年生にして高校の全国大会で優勝を果たし、進学した早稲田大学でも学生名人の称号を得た。大会でプロ棋士と対戦して勝利を飾ったこともある。それでもプロ棋士の道を考えたことはないという。 「僕は棋士養成機関である奨励会には入らず、将来を考えて中高一貫校を受験することを決め、将棋から距離を置くようになりました。プロの世界でやっていく厳しさ、勝たなければいけない重圧…様々な理由があります。 一方で、たっくんは進学校に入学するも1学期であっさり退学して将棋の道に専念しました。普通の人であれば、僕が抱いたような悩みや葛藤を抱えるはずですが、彼は違いました。覚悟も自信もあり、リスクなんて考えなかったのでしょう。 彼は天才ですからね。あれほどの天才に出会えたというか、出会ってしまったというか。彼の存在は少なからず僕の人生に影響を与えたと思います」 現在、川島さんは法曹界を目指して勉強の日々だ。弁護士である伊藤七段の父親からも「向いているよ」とお墨付きを得たという。かつてしのぎを削った2人の歩む道は分かれたが、親交は続いている。幼なじみから見た伊藤七段の素顔とは?
絶対王者の八冠陥落はあるか
「年に数回、タイトル挑戦が決まったときなどに決起集会のようなものが開催され、そこで会っています。いまでも2人でいるときは将棋の話しかしません(笑)。昔も今も寡黙。人と付き合うのが得意ではないと思います。棋士以外の人生はなかったと思いますが、もし違う人生を歩んでいるとすれば、学者や研究者だったと思います。 一方で、負けず嫌いでストイックなところは増していると思います。変化があるとすれば、厳しい世界で揉まれて感情面を一切出さなくなったこと。僕のような普通の大学生とは違う領域のメンタルです」 伊藤七段は17歳でプロ入り、先行する藤井八冠の背中を追い続けたが、これまで一度も勝ったことがなく、対戦成績は11敗1分だった。だが、叡王戦で連勝。徐々にその距離を詰めてきた。幼少時から知る戦友の姿はかつての自分に重なるのかもしれない。川島さんはこうエールを送る。 「まず前提として、藤井さんはプロではない自分には理解できないすごさです。ただ、伊藤七段もいずれタイトルを取れると期待しています。ファンとして応援しています。 今回の叡王戦は、藤井さんが序盤にどんな作戦を選択するのか。ここに注目しています。先に行われた棋王戦では、藤井さんが変化球を投げていた印象があり、伊藤七段の序盤を警戒しているように見えました。 幼少時から黙々と将棋に向き合ってきたところ、自分の世界を持っているところ…2人は共通項も少なくないと感じます。そんな同世代の2人がどんな将棋を見せてくれるのか。結果だけではなく内容面にも注目しています」 注目の叡王戦の第4局は5月31日に行われる。 ・・・・・ つづく記事『元ライバルが明かす…「藤井聡太を泣かせた男」伊藤匠七段の「超人伝説」』では、川島さんが「根本的な頭の良さがズバ抜けていた」と振り返る、伊藤七段の異次元すぎる頭脳と素顔について、迫っています。
週刊現代(講談社)