「台湾の半導体チップに課税」「防衛コストを払え」…!トランプ当選で台湾を覆う「大いなる不安」の中身
頼みの綱だった安倍元首相の政敵が
また、トランプ氏の大統領当選ほどではないが、民進党政権にとって日本での石破首相の誕生とその後の衆院選の結果もあまり良いニュースではなかったようである。 自民党総裁選の3日後に台湾の国策研究院が開催した「日本の自民党総裁選と新首相の政策の方向性」と題する検討会で、輔仁大学日本語学科の何思慎特任教授は「石破氏は安倍元首相が言った『台湾有事はすなわち日本有事』との立場をそのまま裏書きするのではなく、よりバランスを取る形で日中関係の安定化を図るだろう」と述べた(信傳媒、9月30日「石破茂勝出有助印太穩定 但他不會完全背書安倍『台灣有事就是日本有事』立場」参照)。石破氏が、民進党の頼みの綱であった安倍氏の“政敵”であり続けたことも、民進党の不安材料である。 また、中国のある有識者は、石破氏が自民党総裁選の直前に訪台して頼総統と面会した際、頼氏が「台米日で協力して中国に対抗しよう」と言ったのに対し、麻生元首相とは違って同調せず、黙って聞いていたと筆者に話し、石破氏を高く評価していた。 その後の衆院選の結果に関しては、選挙翌日の28日に国策研究院が開催した「日本の衆議院選挙結果とその影響」と題する検討会で、民進党の郭国文立法委員が「現職の甘利明議員は安倍政権時代に半導体政策を主導しており、今回の落選で台日半導体協力に影響が出ないか観察する必要がある。特に野党は日本政府の半導体産業に対する高額の補助金に反対するなど自民党と異なる主張をし、台日半導体協力に必ずしも全面的に賛成してはいない」と指摘した(信傳媒、10月28日「自民黨慘敗》郭國文:安倍時期半導體智囊落選 恐衝擊台日半導體合作計畫」参照)。 これまで述べてきた海外環境の変化を受けた台湾人の「不安」について、ベテランジャーナリストで緑派に近いと見られる盧世祥氏は、「台湾人は国防費をGDPの10%に拡大するのは不可能だと思っているが、一方で韓国、イスラエルといった安全保障環境が厳しい国と比べて台湾の国防費のGDP比率が2.5%程度と低いのも事実で、米国の支持をつなぎとめるには3%であれ5%であれ今以上に比率を上げることは交渉可能だ。台湾人は長い間“タダのランチ”を食べられると思ってきたが、トランプ再登板によって現実に直面せざるを得なくなった」と述べている。 むしろ盧氏にとってより大きな懸念は、台湾の立法院で多数を得ている野党の国民党と民衆党が現在結束して行政院の予算案や人事案を妨害していることで、頼政権は世論の野党に対する見方が厳しくなるまでは低姿勢を余儀なくされそうだと見ており、特に中国共産党も含めた「藍・白・紅」が共同で台米関係の離反を図ることを警戒している。 いずれにしても、安全保障面で米国への依存度が高い台湾にとって、トランプ氏当選は日本にとってのトランプ氏当選以上の衝撃であるが、このことを台湾内部の政治闘争の材料にして内輪もめをすることは中国共産党を喜ばせるだけであり、台湾の政治家には慎重な対応を求めたい。
田 輝(ジャーナリスト・中国研究者)