「台湾の半導体チップに課税」「防衛コストを払え」…!トランプ当選で台湾を覆う「大いなる不安」の中身
頼清徳は不安の火消しに懸命
また、第一次トランプ政権で中枢のポストに就いていた台湾重視のリアリストたちが次々と職を辞し、来年1月に発足する第二次トランプ政権ではトランプ氏への絶対的忠誠を誓う人物ばかりが起用されるとの見通しも、台湾人の不安を増幅させている。 こうした状況に対し、民進党の頼清徳政権は火消しに懸命である。総統府の郭雅慧報道官は6日夜、トランプ氏の当選が確実になると、「米国の大統領選挙が円満に成功したことを祝し、トランプ、バンス両氏の当選をお喜び申し上げる。同時にバイデン、ハリス両氏の任期中の台湾に対する堅い支持に感謝する」と表明した。 また、「このところの世界情勢は動揺し不穏であり、米国は世界の平和と安定、繁栄を確保し民主の持続的な発展を確保するカギとなる役割を持って日々厳しくなるグローバルな挑戦に直面する中で、新大統領の責任は特に重く、台湾は国際民主社会のメンバーとして、米国の最も信頼できる仲間となり、継続的に緊密な協力関係を持って、ともに国際社会の安全、安定のため引き続き努力したい」と述べた。 また行政院の李慧芝報道官も同日、「台米双方の努力の下、双方の関係は安定的に発展し、米国の台湾海峡の平和と安定に対する支持などにより台米関係は盤石だ」と表明した。さらに林佳龍外交部長は7日、トランプ氏が選挙期間中に「防衛のコストを払え」「台湾のチップに課税する」などと発言していたことに関して、「アメリカを再度偉大な国にするには台湾は不可欠だ。(チップで)台湾が1元儲けるたびに米国は3元儲ける構図であり、米台関係を分裂させる必要はない。中国共産党はこの方面で不断に工作を行っており、いわゆる『疑米論』は誤りでかつ必要のないものだ」と主張した。
いつもいじめられている若い嫁みたい
しかし先の立法院選挙で与党民進党を過半数割れに追い込んだ野党は、民進党が中国に対抗するため米国に接近しすぎたことが、台湾人がトランプ氏の当選を不安視せざるをえない根源にあると批判を強めている。 最大野党国民党の王鴻薇立法委員(国会議員)は6日、「4年前の大統領選挙で誤ってトランプ氏を支持した民進党政府は、トランプ氏が台湾は半導体産業を盗んだと言ったり防衛コストを払えと言ったりしても、いつもいじめられている若い嫁みたいで物一つ言えないでいる。郭智輝経済部長に至っては『米国の大統領選でどちらが勝っても目下の台湾経済にとっての変化はとても小さい』などと述べ、トランプ保護主義の台頭を完全に無視している」と追及した。 また同じ国民党の頼士葆立法委員は、「トランプ氏はチップ産業に関税をかけると何度も言っていて、サプライチェーン全体でのコストは増加し、その影響は軽視できない。彼はさらに台湾が国防費をGDPの10%、2兆6000億元にまで増やすよう要求し、社会を驚愕させた。卓栄泰行政院長は社会福祉予算に影響することはないと言うが、トランプ氏の圧力の下で国防費の大幅増加は避けられないだろう」と指摘した(中廣新聞網、11月6日「川普要台國防經費提高至GDP10% 王鴻薇:台灣準備好了嗎」参照)。 さらに新党の侯漢廷台北市議は7日、これまで郭智輝経済部長は台湾積体電路製造(TSMC)が回路線幅2ナノメートルの先端半導体を海外で生産する可能性について、「台湾には技術保護法の規定があり、当面はできない」「投資審議会の審査を経る必要がある」などと否定的な答弁をしていたのに、7日の段階では「TSMCはいずれ米国で2ナノの生産を始めるだろう」と発言を変えたことを指摘し、半導体のサプライチェーンが台湾から撤退する流れになっていると述べた。 またトランプ氏が台湾を守るかこれまで明言せず、その後「中国に高関税をかける」と言い出したことを挙げ、「大陸(中国)が聞いたら、関税を払えば統一できるのかと思うだろう。中国大陸に反対することは必ずしも台湾を支援することにならない。米国は反中だが、それ以上に台湾から金を巻き上げようとしているのだ!」と強調した(中時新聞網、11月7日「川普喊1句曝玄機?侯漢廷示警『台美關係突破』夢想幻滅」 参照)。 トランプ氏当選の台湾への影響について、筆者が電話で直接話を聞いた藍派(国民党、新党など台湾独立に反対する政治勢力)に近い学識経験者によると、今後トランプ政権の国務長官人事で米外交の方向性が見えてくるが、米国はこれまでAIT(米国在台湾協会)という事実上の在台大使館を通じて台湾をコントロールしてきており、台湾がこれを逃れるのは仮に国民党でも難しいという。従って政治をビジネスの一部と考えるトランプ政権がいずれ中国と「ディール」で妥協する見込みである以上、頼清徳政権は今後中国への強硬な態度を改めざるを得ないだろうという。 では台湾にとってトランプ当選は悪いニュースばかりかと聞くと、「米中が妥協すれば中国は台湾を攻撃しないので、戦争が起きないのは良いニュースだ」と答えた。これはこれで1つの見識だが、トランプ新大統領と習近平総書記がどちらも今後合理的に行動することが大前提である。もしこのうちの一方が非合理的な考えを持ったり、双方が台湾をいけにえにする形の“合理的選択”をしたりした場合は「良いニュース」にはなりえないだろう。