コロナ禍ロックダウンの武漢で何が起きていたか ドキュメンタリータッチで描いた金馬奨受賞作
中国の同性愛者描き主演男優賞
金馬奨では、こうした中国では上映が困難とみられる作品のノミネートが相次いだ。中国の同性愛者たちを巡る日々を描いた耿軍(ゲン・ジュン)監督の「漂亮朋友 Bel Ami」もその一つ。題名の意味は「美しい友」と言ったところ。主演男優賞、撮影賞、編集賞の3冠に輝き、コンペ以外で観客賞も受賞した。 作品賞を巡ってはノミネート5作品のうち「未完成の映画」と「漂亮朋友」の2作が最後まで競ったという。審査の講評で「未完成の映画」について、「物語のロジックが素晴らしい。現実と虚構が交錯し、さまざまなメディアを駆使している。緊張感に満ちたドラマチックな瞬間を作り出している。社会や自己、映画について考えさせられる作品」などと高く評価された。
インディペンデント映画は海外資本で
中国では90年代、第6世代と呼ばれる監督たちが登場し、撮影所の外で作品を製作するようになった。こうしたインディペンデント映画(独立電影)は当局の検閲を通さずに製作された。このため中国では一般公開できないものの、中国社会をリアルに描き国際的に高い評価を受けた作品が相次いだ。 2000年代に入ると、デジタル技術による製作が加速した。フィルムで製作するより低予算で済むため、インディペンデント映画を後押し。第6世代の賈樟柯(ジャ・ジャンクー)や王兵(ワン・ピン)らの作品が海外で受賞した。次第に中国の検閲から離れ、外国で資金を得て製作される作品が増えている。「未完成の映画」の製作国はシンガポールとドイツだし、金馬奨で世界初上映となった「漂亮朋友」はフランスだ。 金馬奨は、こうした中国で上映が困難と見られる優れた作品を国際社会に伝える受け皿にもなっている。今回は応募が過去最多の718作品に上り、このうち中国が276作品と全体の38%を占めた。台湾メディアなどによると、中国の応募作品数は、例年なら100作品ほどだったが、今回はドキュメンタリーや短編劇などが大幅に増えたという。その背景として、これらの部門で受賞したら、米アカデミー賞の選考対象になるなど国際市場への道が開かれたことが増加につながったと指摘している。
毎日新聞外信部記者 鈴木玲子