安くて環境にもいいならなんで広まらない? タクシーが使うLPGガスがけっこう有能だった
LPGが普及しないワケ
我々がクルマで一般に接する内燃機関といえば、ガソリンエンジンかディーゼルエンジンということになるが、じつは、ガソリン/軽油以外の燃料を使う内燃機関も身近に存在している。もう、お気付きの方もいるかと思うが、多くのタクシーで使われているLPG燃料だ。 【画像】都内にあるLPGステーションの画像を見る LPG、すなわちLiquefied petroleum gas=液化石油ガスのことで、圧縮することで常温下でも容易に液状となるガス燃料のことである。じつは、これがLPGの大きな特徴(利点)で、ガス(気体)を圧縮して液化するとその体積は250分の1となるため、エネルギー密度が非常に高く、小型ボンベひとつから大きなエネルギーを取り出すことができる。 この特徴は、使用にあたってインフラの整備が必要な都市ガス(気体)に代わり、ボンベひとつで家庭用燃料や業務用燃料の役割を果たすことができたり、あるいはボンベ(タンク)容量を大きく設定できない自動車用の燃料として、非常に都合のよい条件を備えていることになる。 LPGガス自体の組成は、炭素3個と水素8個(分子式C3H8)によるプロパンと炭素4個と水素8個(分子式C4H8)によるブタンにわけることができ、自動車用燃料のLPGは後者のブタン系ガスとなる。
燃費もよく燃料代も安いが……
さて、このLPGを燃料とするクルマだが、普及し始めたのは1960年代に入ってからのことで、現在と同じくタクシー車両としての登場だった。エンジンの基本構造はガソリン車やディーゼル車と変わらず、燃料タンクからエンジンの燃料供給装置までがLPG専用構造となっている。 LPGを燃料として使う車両は、LPGのみを燃料として使うLPG専用車、LPGとガソリン(始動時、暖機運転時)を併用するバイフューエル車、そしてLPGと電気モーターを使うハイブリッド車の3タイプにわけられる。 気になる性能だが、基本がガソリンエンジンと同じ仕様とした場合、出力/トルクが80~90%程度、燃費性能はほぼ同等、二酸化炭素の排出量が6~12%程度少なくすることができ、内燃機関として見た場合、環境性能に優れたエンジンということができる。また、1リッターあたりの燃料価格は、だいたいガソリンの6割程度と見てよく、経済性に優れることも大きな特徴となっている。タクシー仕様車がLPG仕様となるのは、こうした特徴が背景にあるからだ。 こうしてLPG車両の特徴を並べていくと、タクシーといった営業車両にとどまらず、個人オーナー車両として見た場合も利点は多いが、やはり最大のネックとなるのが燃料を補給するLPGスタンドの少なさだ。日本の場合、法規上の問題からセルフ方式のスタンドは認められず、専用のオートガススタンド(オートガスステーション、LPガススタンド)での補給となるが、これの数が少ないのだ。 車両を保管する場所が、タクシー会社が拠点を構える地域なら、その付近にLPガススタンドはほぼ必ずあるので問題はないと思うが、日本全国レベルで眺めた場合、2022年時点でその絶対数は1330カ所と少なく、いまもその数は減る傾向にあるようだ。 常に車両保管地点を中心にクルマを使うケースならさほど問題はないが、長距離移動、とくに郊外エリアが移動の目的地となるような場合には、どこにLPガススタンドがあるか、また、その営業日、時間などを確認しておかないと、簡単に動けなくなってしまう可能性が高い。 燃料価格や環境性能など、ガソリン/ディーゼル車と較べた魅力は大きいが、ネックとなるのはそのインフラだ。EVやe-fuel(合成燃料)の今後の普及までを考えると、現状LPG車の存在価値は、ある種限定的といってよいのかもしれない。
大内明彦