時価総額1.8兆円の語学アプリ「Duolingo」を生んだグアテマラ出身の起業家
貧困層からビリオネアに
2021年にナスダックに上場したDuolingoのAIへの取り組みは、ユーザー数と収益の急増につながった。このアプリの月間ユーザー数は、約1億400万人で前年比で40%増加している。また、直近の四半期の収益は1億7830万ドル(約270億円)に達し、前年同期比で41%増加した。 Duolingoの株価は年初来で約30%上昇し、10月24日時点で279ドルに達した。時価総額は120億ドル(約1兆8230億円)を超えている。フォン・アンは約10%の株式を保有しており、共同創業者のセヴェリン・ハッカーとともにビリオネアになっている。 ■貧困層からビリオネアに フォン・アンは、シングルマザーの母と祖母と共にグアテマラシティで育ち、1996年にアメリカに移住し、デューク大学で数学を学んだ。その後、ピッツバーグのカーネギーメロン大学で博士号を取得し、そこで彼は人間とロボットを区別する「CAPTCHA」システムを共同発明した。このプロジェクトを基に彼は「reCAPTCHA」という企業を立ち上げ、2009年にグーグルに非公開の金額で売却した。 その2年後に彼は、Duolingoを設立し、スイスのコンピューター科学者である共同創設者のハッカーをCTO(最高技術責任者)に任命した。 「グアテマラで暮らしていた頃の私は、無一文で、母も同様だった」と、米国とグアテマラの二重国籍を持つフォン・アンは語る。自身がビリオネアになったことについて彼は、「喜ばしいことだが、常にそのことを考えているわけではない。誇りには思っている」と述べている。 フォン・アンの87歳の母親、ノーマは現在、彼とピッツバーグで一緒に暮らしているが、彼女は彼の財力を実感していないという。「母親はいつも、グアテマラに電話かけるのは、高すぎるかと聞いてくるんだ。だから私は彼女に、好きなだけ電話していいんだよと言っている」と彼は笑いながら語った。 しかし、ここ数年で有名になったフォン・アンは、新たな課題にも直面している。彼はグアテマラの街を歩いていると、人々に声をかけられ、セルフィーを求められることが多い。また、国の前大統領を公然と批判したため、命の危険を感じることもある。現在、彼がグアテマラを訪れる際には、プロのセキュリティチームが同行しており、万が一銃で撃たれた場合に備えて、自身の血液型に適合する血液パックを彼は携行している。 ■TOEFLに代わる英語検定試験 Duolingoの本社の屋上では、社員たちが晴れた日にはランチを取ることがあるが、そこからはピッツバーグ大学の42階建てのゴシック風建築のビルが見える。「Cathedral of Learning」の愛称で知られるこの建物は、同社が学術的なルーツを持つ企業であることを思い出させる。 フォン・アンはDuolingoを立ち上げた当時に、カーネギーメロン大学の数学教授を務めていた。この大学は一時期、1億5000万ドル(約227億円)相当のDuolingoの株式を保有していたが、上場後に売却したという。 Duolingoは今、AI家庭教師の取り組みに加えて、海外の大学の受験を見据えた学生のための英語試験であるDuolingo English Test (DET)に、多額のAI投資を行っている。この試験は、TOEFLなどの既存の試験を置き換えるもので、すでに米国の大学ランキング上位100校中99校が選考のプロセスで採用していると報じられている。