絶好調のマツダ・ロードスターに弱点はないのか?
しかしこういう声がマツダを迷わせた。軽量を優先させた以上、部品の剛性が足りないのは仕方がない。そこに高剛性を求めるならNCは完全に正しかったことになるのだ。だがそれを「重い!」と指弾しながらも、同じ口が「スポーツカーらしい加速性能と旋回速度」を求めるわけだ。軽量化して部品強度が下がったなら旋回限界は下がるのが物理的な帰結だ。しかしマツダは「もっと速く」という声に突っ張り切れなかった。そして剛性が不足気味のサスペンションに対して、相対的にグリップの高いアドバンスポーツV105(195/50R16 84V)というタイヤをヨコハマに専用開発させた。 このタイヤは決してハイグリップ一本槍というタイヤではない。それでも歴代ロードスターより旋回限界を上げる設定になっているのは否めない。その結果、過去3世代のロードスターが作って来た性格が弱まってしまった。 ロードスターの話をする時は、この塩梅が難しいのだが、ハンドリングカーとしてのNDロードスターは現在の世界のクルマを見回しても一級品で、素晴らしいことは確かだ。しかし、スポーツカーの水準で見ても突出していた嬉々として曲がるという世界が愛したロードスターならではの面白さ、楽しさは薄まってしまった。速く走れることと引き替えに。 もちろん、ユーザーは色々だ。筆者がグリップがありすぎるというアドバンスポーツに飽き足らず、さらに激辛のタイヤを選ぶユーザーもいるだろう。それはそれ、個人の選択としてなら何を選ぼうが勝手だ。ただ、歴代三世代の延長線上とNDの立ち位置には少しズレがあると思う。そして極めて残念なことに、この195/50R16 84Vというサイズで、もう少し大人しい性格のタイヤを選ぼうと思っても、これと言えるタイヤも存在しない。
現行ND型は最後の1トン未満スポーツか
NDは何故そう仕上げられたのだろうか? かつては「とにかく速く」という顧客の要求に対する答えとしてRX-7があった。しかし、RX-7不在の今、マツダのスポーツカーレンジは、全てロードスターが受け持たなくてはならない。そういう意味ではフラッグシップ・スポーツカーの存在こそがロードスターの「絶対的な速さ以外の価値」のあり方を担保していたのだとも言える。ラインナップの歪みがロードスターに無理をさせていると筆者は思う。 さて、ユーザーがタイヤで補正できないとすれば、何か打つ手があるのだろうか? 残念ながらユーザーレベルでは難しい。しかし数人のマツダの人たちに聞いてみると、少なくともハブの話については認識があるようだ。まだモデルライフは存分にあるので、マイナーチェンジでそこに何らかの手が打たれてくることは十分にあり得るだろう。 しかしそれは当然、重量増加を呼ぶのだ。NC、ND、そして次世代のNEと振り子のように行ったり来たりするのかもしれない。顧客の声に耳を傾けないのも問題だが、一方で顧客の声に従ってばかりいても振り回される。おそらくこの初期型NDロードスターは1トンを切る最後の量産スポーツカーになるだろう。それを選ぶのか、またはポテンシャルのアップを選ぶのかはユーザーの選択である。 (池田直渡・モータージャーナル)