絶好調のマツダ・ロードスターに弱点はないのか?
衝突安全基準と車両重量の戦い
しかし、無情にも世界各国の安全基準は次々に厳しさを増す。2代目のNBロードスターはその最中にデビューすることになる。基本的に2代目は初代の改良版だと考えていいだろう。基礎部分は同じクルマだ。ヘッドランプが固定式になったのはライトの格納機構による重量を抑えることと、北米で厳しくなった歩行者保護への対応だ。ライトを上げた時突起物になり対歩行者の事故の時に望ましくないとの見解から、リトラクタブルライトが使えなくなったのである。
第3世代でロードスターは大きく変わる。ファミリアは先細りを通り越し、すでにアクセラにモデルチェンジしていたが、このCセグメントそのものの地盤沈下によって、かつてのような生産台数はもう望めない。マツダは3世代目NC型の基本パーツをRX-8との共用化した。それは少量生産で採算の採りにくいRX-8の側の要求でもあったはずだ。 こうして3代目ロードスターは、それまでと明らかに違うレベルのパーツを使えることになった。ハブひとつとってもRX-8の250馬力を前提に設計されている部品だ。これまでのファミリア用とは剛性が違う。そういう意味ではNCは歴代最強のポテンシャルを持つに至ったのだが、車両重量の方も歴代最重量になってしまった。最も軽量なモデルでさえも1100キロに達した。 問題はそこだ。スポーツカーの世界の経験則として、1トンには運動性能を左右する境界線があると言われている。これまでのロードスターを高評価してきた人たちはこの重くなったロードスターを強烈に批判した。ユーザーの中には「NCはロードスターと認めない」という極端な意見を言うものまで出る始末だ。
「1トンの壁」が要求する等価交換
そうした反省を経て、NDロードスターは何としても1トンの壁を切ることを目指した。ロードスターのユーザーの期待がそこにあったからだ。徹底的な軽量化対策が採られ、基礎的なパーツはBセグメントのデミオから調達し、ここでも徹底的な軽量化を貫いたのである。 しかし、それには当然弊害もある。端的に言えばNDロードスターは部品単位での剛性が不足している。特にハブ回りには二つの問題がある。 NDロードスターのリヤサスペンションはマルチリンク。つまり複数のアーム(テコ)がせめぎ合って、ストローク時のタイヤの向きを望ましい方向にコントロールする仕組みになっている。色んなアームがそれぞれ別の方向に押そうとする力は全てハブキャリアにかかる。だからストロークするほどこのハブキャリアの剛性は重要になってくるのだ。 もう一つはタイヤだ。この種のスポーツカーで難しいのは、ユーザーの感覚がそれぞれ少しずつ違うことだ。「ライトウェイトだから加速性能や絶対的なコーナリング速度は問わない」というのが本筋だと筆者は思っているが、中には「それでもファミリーカーに負けるのは我慢ならない」という人もいる。それは個人のスポーツカー像のあり方なので、どちらが正解というわけではない。