「毎年12兆円も損失が出ると言われるが⋯」デジタル“2025年の崖”は本当なのか 専門家が徹底検証
ローランド・ベルガー、KPMG FASなどでパートナーを務め、経営コンサルタントとして「40年の実績」を有し、「企業のDX支援」を多くてがけている大野隆司氏。 【話題の書籍】チーム・組織を強くしたい「すべての現場リーダー」に20年読み継がれてきた必読書 この連載では大野氏が自身の経験や大手・中小企業の現状を交えながらDXの効果が出ない理由、陥りやすい失敗、DXの将来性について語る。 今回は、2024年に話題になった「2025年の崖」について解説する。 ■「2025年の崖」は本当にあるのか?
2024年もDXの流行は衰えませんでしたが、2024年は「2025年の崖」という言葉がメディアでしきりに取り上げられました。 ちなみに日経電子版で見ると「2025年の崖」という言葉は2019年から2023年には合計でも36件ですが、2024年には31件も登場しています。 「2025年の崖」とは前回記事(「100億以上かけてIT投資→システム障害」深い訳)でも述べましたが、2018年9月に経済産業省が出した「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」を指すもので、その主張は次のようにまとめることができます。
✔ DXとは、新しい製品やサービス、ビジネスモデルを通して、競争上の優位性を確立すること ✔老朽化・複雑化・属人化している、いわゆるレガシーシステムがDXの足かせとなっている ✔レガシーシステムを放置したままだと、2025年以降毎年12兆円の経済的損失が発生する このレポートはDX支援を行うシステム会社やITコンサルタントに強く支持されています。 しかしその反面、DX支援などを生業にしていない「デジタル一般人」からしますと、「2025年の崖」の指摘に違和感を抱く人は少なくありません。
これも前回記事で簡単に触れたことですが、なかでも「レガシーシステム(これは老朽化・複雑化しているシステムのことです)を放置したままだと、2025年以降毎年12兆円の経済的損失が発生する」という指摘は、にわかには信じにくいものでしょう。 ■ちなみに「12兆円の規模感」は? 12兆円といいますと、日本郵政やセブン&アイ・ホールディングスの売上、コンビニの国内での年間売上額に相当します。 少し古いですが、1990年代後半に大手銀行へ注入された公的資金でも9.3兆円、2023年度の日本の防衛費でも6.8兆円です。