映画『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』は鑑賞後にしばらく幸せな気分に浸れるはず!
ハリウッド映画の魅力は、予算をかけたスケール感や、最新の映像テクノロジー、あるいはトップスターの輝きなど多方面で感じられるが、もうひとつ忘れてはいなけいのが上質な人間ドラマ。このジャンルには人生の宝物になるような名作がいくつも揃っている。その名作ラインナップに新たに加わりそうなのが本作だ。 今年のアカデミー賞で作品賞など主要5部門にノミネートされ、助演女優賞を受賞した、この『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』。舞台となるのは、1970年のアメリカ東海岸、ボストン近郊の全寮制の名門男子校だ。生徒も教師も家族の元に帰るクリスマス休暇は、事情があって学校に居残ることになった生徒のために、教師の1人が付き添うのがルールになっている。学内で嫌われ者の教師であるポール、寮の料理長メアリー、そして最終的に1名になった居残り生徒アンガス。その3人の新学期までの時間を描くという一見、静かで淡々としたストーリーながら、あちこちに激しく心をつかむシーンや、しみじみと感動させるセリフが詰まっており、観た後しばらく幸せな気分がキープされる。アカデミー賞に絡んだのも納得の名品だ。 やや性格が捻じ曲がったポールが、心に抱えた屈折やコンプレックス、思わぬ優しさ。どっしり構えたメアリーの深い悲しみ。反抗的なアンガスが、大人の世界も教えられて成長するプロセス。まさに俳優の実力が試されるメイン3人の役どころで、名演技が連発される。そこはちょっと異次元のレベル! メアリー役のダヴァイン・ジョイ・ランドルフはオスカーに輝いただけに当然だが、注目はアンガス役の新鋭ドミニク・セッサ。なんと本作が初めての映画出演という大抜擢ながら、インパクトのある顔つきと繊細な表情で、多くの人が感情移入させられ、それぞれの学生時代を重ねながら見守ってしまうのでは? 鮮やかに再現される1970年のカルチャーも見どころだが、映画の作り自体がどこか70年代っぽくて、そのあたりもハリウッドの“佳き時代”に浸れる要因かも。監督は『サイドウェイ』や『ファミリー・ツリー』など人間ドラマの名手として知られるアレクサンダー・ペイン。その彼の集大成と言ってもいい仕上がり、心ゆくまで満喫してほしい。 『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』6月21日公開 監督/アレクサンダー・ペイン 脚本/デヴィッド・ヘミングソン 出演/ポール・ジアマッティ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ドミニク・セッサ 配給/ビターズ・エンド 2023年/アメリカ/133分
文=斉藤博昭 text:Hiroaki Saito