独身=不幸は“呪いの言葉” 結婚が幸せの「絶対条件」と思い込んでいる人の“盲点”
シングルでも孤独を感じない方法は?
社会政策やシングル研究などが専門のイスラエルの社会学者、エルヤキム・キスレフは、「『選択的シングル』の時代 30カ国以上のデータが示す『結婚神話』の真実と『新しい生き方』」(舩山むつみ訳、文響社)で、世界各国の既婚者・未婚者を比較した調査結果を突き合わせながら、「結婚している人たちと結婚していない人たちの間の孤独と幸福の差は驚くほど小さい」と指摘しました。 これは、そもそも長い人生においていくらパートナーがいても、孤独感と上手に付き合っていくことが不可欠であり、いずれ離別や死別などによってシングルにならざるを得ないことが大前提としてあります。キスレフは、「孤独感はパートナーがいるかどうかとは関係のない、独立した問題であり、その問題の解決策は自分自身の中に探すしかないことを結婚後にようやく理解するようになることが、さまざまな研究で明らかになっている」とまで述べています。 また、シングルの高齢者と話していると、「幸福な人たちは、寂しいとか、人との接触がないなどと感じているのではなく、単にひとりでいることを楽しんでいる」ということも強調しています。このような人々は「ひとりでいること」と「寂しさ」をはっきり区別していると表現しました。 また、さまざまな方法で地域社会とのつながりや趣味のつながりなど、多様なソーシャル・キャピタル(社会関係資本)を持っており、社会的孤立に陥っていないことも分かりました。 このような知見を踏まえると、「結婚している人の方が幸福度が高い」という考え方は、未婚と既婚のそれぞれの実態を無視して、カテゴリーだけで比べていることも含めて、かなり無理があることに気が付きます。パートナーの有無を問わず、自分の価値観や感情を含めた孤独感との付き合い方や、ソーシャル・キャピタルの状況こそが幸福度を左右するとても重要なポイントになっているからです。 ですが、相変わらず多くの人々は、「結婚=幸福」というイメージや図式にいまだとらわれています。そのせいで「独身=結婚できなかった人」というレッテルを誰かに貼ったり、誰かに貼られたり、同世代の友人がみな結婚したことに引け目を感じたりします。 そして最悪の場合、自分に自信が持てず、自己肯定感が低くなる人も少なくありません。改めるべきは、「結婚して一人前」「結婚すればどうにかなる」といった古い結婚観や、「生涯独身の人は不幸」「子どもがいないのは不幸」といった幸せの本質とは無関係な偏見でしょう。 そして、先述のキスレフが述べているように、結婚、未婚といった立場に関係なく、幸福な人生を送るためには、前向きな心構えを持ち、いろいろなネットワークの力を借りて、お金や健康、人間関係などをやりくりするすべを身に付ける必要があるということなのです。 けれども、それはそれで別の意味で難易度の高いゲームのようにも思えてきます。育ちや環境などに恵まれていない人ほど、コミュニケーション能力や時間的余裕といった無形の資産が求められるようになるからです。ひょっとすると、私たちは特定の誰かと一生添い遂げるかどうかなどよりも、幸福になれる心理的なスキルの方が極めて重要となる時代の入り口にいるのかもしれません。
評論家、著述家 真鍋厚